シークレットの標的(ターゲット)
イケメンの帰国
緒方さんが出張に行き、緒方さんに職場に突撃されることはなくなったものの社内を歩いていると視線を感じたり、ひそひそ声が聞こえることがあった。
あの海外事業部の女性3人組も長期の海外出張に出ていき国内にはいないのだけれど、出張前にあちこちだ『緒方さんが健康管理部のスタッフと付き合っている』と吹聴していたせいで私はちょっとした注目の的だ。
それは自分の職場でも同じことで私と緒方さんとが交際しているのではないかというものだった。
まあ、既にあれだけアピールされてしまったのだから仕方ない。
誰かに彼との関係を聞かれたら曖昧な笑顔を見せるか、「ちょっとした友達なんです」と言って逃げることにしている。
ま、実際そんなものだし。
そうして過ごしていると、一週間はあっという間だった。
緒方さんからの連絡はない。
それよりも海外赴任者健診の日がやってきて私はちょっとドキドキしていた。
そう、あの小林さんが来るのだ。
最後に見かけたのが約1年ほど前。
これからは暫く本社の海外事業部にとどまるらしいというのは松平主任の情報だ。
今までの数々の実績が認められて海外事業部の課長に昇進するらしい。
しばらくは本社勤務となる。
次々に本社からイケメンの独身者がいなくなった今、おそらく小林さんは注目の的になるだろう。
そう思いながら受付のカウンターで健診者の到着を待った。
今日の私の担当は健診の受付と各種入力作業。
受付の時に間近で会話できると思うとちょっとドキドキする。
そんな中、小林さんは受付時間ギリギリの一番最後に小走りでやってきた。
イケメン来た、来た。
ほわあぁと見とれそうになってしまうけど、そこは仕事中、ギリ耐えた。
マッチョすぎない体型もキープされていて安心。
「申し訳ない。海外からの電話対応をしていたら少し遅くなってしまって」
急いで来てくれたのであろうことはその態度からよくわかる。
こんな時、忙しいんだから遅れて当たり前みたいな顔をしないところも好感度が高い。
いるんだよねー、連絡もなく大幅に遅れてきて『こっちは大きな仕事してるんだよ、同じ社内なんだから都合つけろよ』みたいなことを言う奴。
気持ちはわかるけど、こっちにも採血後の血液を検査会社さんに回さなきゃならない時間的制約の都合もあるし、外部スタッフにお願いするような類の検査だと決められた時間内でないと困る場合もあるのだ。
ここは24時間対応の病院ではない。
もちろん、最大限融通を利かせるように努力はしている。
「お疲れ様です。大丈夫ですよ、まだ余裕です」
そう返すと小林さんは「良かった」とホッとした様子で息を吐いた。