シークレットの標的(ターゲット)
医療廃棄物の容器を倉庫から取り出していると、使い捨てシーツの補充のため宮本さんも倉庫にやってきた。

「大島さん、シークレットさんと付き合ってるってホントですか」

宮本さんもやっぱり緒方さんの話だったか。ちょっとがっかり。
みんな興味津々なんだろうけど、もう本当に勘弁して欲しい。

「付き合ってもシークレットさんって出張ばっかりですよね。寂しくないですか」

相手をするのもめんどくさい。

「大島さんには出張先を教えてくれるんですか。期間も場所もわからないと不安ですよね」

困ったように微笑んで躱そうとするもしつこくて諦めてくれない。

友達という関係にはなったけれど、この職場では緒方さんが色々やらかしてくれたせいで私たちは付き合っていると信じられている。

否定すると『またまた~恥ずかしがらなくても』とか『秘密にしなくてもいいじゃないですか』などと言われてしまうし話が長くなって更にめんどくさいことになる。

小池さんと親しい宮本さんだから小池さんから話を聞いていると思って間違いないだろうし。

「出張中に彼からの連絡はあるんですか」
そう聞かれて仕方なく
「そうでもないわ」と返事をした。

”そうでもない”という微妙な表現にして肯定も否定もしない。

「お付き合いをしてるのなら連絡取りたいですよね。付き合い始めたばかりみたいだし。それとも2人はそんなにラブラブじゃないんですか。ーーでもあんなイケメンの隣に並ぶって大変ですよね。人に見られないようなお店とか自宅デートとかするんですか」

ラブラブなはずあるかい。
でもなにかトゲのある言い方にちょっとカチンとする。
人に見られないようなお店って、イケメンと私が釣り合いがとれないから人目に付かない店に行くってこと?失礼だな。

まさか煽ってきてるのかしら。

もしかして宮本さんも緒方さんのファンだったとか。
だとしたらあの男は腹黒だからやめておいた方がいいと教えてあげたくなる。もちろん言わないけど。

「お互い社会人だし、彼は遊びに行ってるわけじゃないしね」

私は微笑んでその場を離れようとしたのに、宮本さんがシーツも持たずに付いてくる。

「でも、連絡取ってるんですよね。いまどこにいるんですか」

呆れて立ち止まり、宮本さんの顔をじっと見つめてやると彼女も自分がしつこくしていたと気が付いたらしく「ちょっと羨ましくて」と慌てて倉庫に戻っていった。

そんなに緒方さんのことが気になるのか。

純粋な恋愛感情で彼のことが好きなのだとしたら、彼に付き合う彼女ができたらショックだろう。

私は友人(仮)。
職場の人間関係で居心地が悪くなるのは避けたい。
ま、既に面倒くさい事になっているけど。

妊娠してないことが確定したら「付き合って早々に別れちゃった」って吹聴して回ったほうがいいのだろうか。
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