シークレットの標的(ターゲット)
医療機器は高額だけど、予定ではエコーを一台購入するだけだし一介のナーススタッフが購入メーカーの選定に関わるはずもない。
そんなことメーカーさんだって当然理解してる。だからメーカーの営業さんが私に近付いて来ることも私の口から情報漏洩がされることなんてなにもないはずなんだけど。

「もしかして他にも高額医療機器の購入の話があるんですか」

だとしたら納得できる。
例えばレントゲン機器とか。もしかしてCTを購入なんて話になっているとすれば巨額のお金が動く。そこに絡みたいという医療機器メーカーや代理店は少なくないはずだ。

「でも、私は何も知らないし、誰が来ても何も話すことはないから安心ですね」

そう言うと主任も先生も微妙な表情で「そうね」と少し微笑んだ。その表情を見て思い当るのはあと一つ。

「・・・まさか緒方さんの仕事絡みの方ですか」

「・・・変に気を遣わせてしまってゴメンなさいね」

主任は申し訳なさそうに頭を下げる。
隣の草刈先生も神妙な顔をしていた。

「先生も緒方さんの仕事に絡んでます?」

「うーん、私は関係ないけど、無関係ではないって感じかしら。でも詳しいことは知らないし、知ってても言えないから後はあなたの想像力に任せるわ」

草刈先生は肩をすくめてちろりと舌を出した。
隠し事がバレてせいせいしたという雰囲気を出してきていることに苦笑してしまう。

松平主任の顔を覗き込むようにすると主任も苦笑して口を開いた。

「私も詳しくは知らないの。あのタヌキからあなたに不審者が近付く可能性があるから気をつけて欲しいって言われただけ。私は女性の僻みと緒方君の仕事関係の両方だと思ってるけど、詳しくは聞いてない。ホントよ」

なるほど。
タヌキ常務は緒方さんと付き合っている私のことを気にしているらしい。
女性関係だけならこんなに心配されないだろうからおそらく仕事の方。
ふむ。それだけ緒方さんの仕事は重要で秘密性が高いと。

さすが、シークレットさん。大きな仕事をしていらっしゃる。

「今のところなーんにもないですけど、何かあったら必ずご報告します」

お二人に向かって微笑むと二人ともホッとしたように頷き返してくれた。

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