シークレットの標的(ターゲット)
「そういえば、主任が常務の姪だって事が社内に広まってしまった事は大丈夫なんですか」

あれから気になっていたことを尋ねてみる。
主任はあの常務の姪だと言うことは隠しているんじゃなかったか。海事の柴田さんという実の弟との関係にしても公表していないし。

緒方さんと私の噂だけでなく、主任とタヌキの関係の噂も広がっている。

血縁関係があると聞くと、どこか似たところがないかと見つめてしまうのが人の性だと思うのだ。
それがあのタヌキの関係だとわかればなおのこと。

実際、私でさえ健診の時、無意識に主任の実弟くんの顔を見つめてしまったくらいだ。
因みにだけど、タヌキと似ているところは見つけられなかった。
主任と弟くんは言われてみれば目元や顎の形が似ている気がする。

「ああ、アレね」
主任は小さく舌打ちした。

「あの後、伯父には文句を言ってやったけど、広まってしまったからにはもう仕方ないとこっちが諦めるしかなかったのよね。本当に悔しいことに。私が慌てて伯父さんとか口走っちゃったばっかりに」

主任の口角に力が入る。
あー、ホントに怒ってらっしゃる。

「あのタヌキは自分の見た目が”アレ”だって自覚がないのかしら、あと自分の影響力の大きさも。社内で知らないひとに見つめられたり、声を掛けられるようになって本当に迷惑しているんだけどっ」
と主任はぷりぷりと怒っている。

わざと地味メイクをして素顔を隠している主任だけど、自分が少しでもあのタヌキに似ていると思われると我慢がならないらしい。
だったらその綺麗な素顔を晒してしまえばいいのにと私と草刈先生は顔を見合わせてため息をついた。

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