シークレットの標的(ターゲット)
向田くんから離れると横に並んだ小林さんがまわりに聞こえないように小さく「そのままメトロの入り口をスルーして歩いて、次の信号を左に曲がって」と
声を掛けてくれる。
「はい」と頷いて肩を並べて歩く。
本当に申し訳ないけれど、憧れの小林さんに助けてもらった上に一緒に歩けるだなんて夢のよう。
角を曲がると「追いかけては来なかったな」とチラリと背後を確認した小林さんが私に微笑みかけてくれる。
「しつこくされてたみたいだから声を掛けてしまったけど、これでよかったかな」
「はい、助かりました。本当にありがとうございました」
「さっきの彼、大島さんの知り合い?」
「ええ。一応高校の同級生です」
「一応って事はさほど親しくない関係だと理解していいのかな」
「そうですね。同窓会で10年ぶりに再会したんですけど、高校時代もその時もたいした会話はしてないです。だからあんなに親しげにされてもって感じでかなり困ってたんです。しつこくされることに心当たりがないというか」
「そう。助けられたのならよかったよ。それに、彼、キネックス社の社員じゃないかな。大島さんは知ってた?」
キネックス社?と首を傾げると、小林さんが
「知らないならいいよ。大島さんは健康管理部だからビジネス絡みのことはよくわからないよね」と頷いてくれた。
同窓会の時に自分はどこの会社で何をしてるなんて言ってた人もいたけれど、私はろくに聞いていなかった。森山君も誰かに二次会の時に聞かれてたけど、サラリーマンしてるって言っただけでどこに勤めてるかなんて言ってなかった。
「それで、大島さんはこのあと予定ある?」
「いいえ。向田君の誘いを断わるために言ったでまかせなので」
家にまっすぐ帰るだけ。家事をするだけで何の予定もない。
これじゃあ憧れの人に寂しい女だと思われちゃうかなとちょっと気持ちが下降してしまう。
「だったらちょっとだけ付き合ってもらってもいいかな。実は上司の命令で今から新規開業するカフェのオペレーションテストに行くことになっていてね。できれば誰かを同伴して行くようにって言われてたんだ」
「カフェのオペレーションテストですか」
「そう。部下を連れてってもよかったんだけど、みんな忙しそうにしていたから、結局一人で行くところだったんだ。これならちょうどさっきの彼の誘いを断わる理由になるんじゃないかな」
小林さんはそう言って笑顔を浮かべた。
マジですか。なんて親切な人なんだろう。
小林さんのスマートなお誘いに私の方は断わる理由などない。
「小林さんさえよろしかったらぜひお願いします」
もちろん、こんなチャンス逃す手はない。
小林さんに下心がないことはわかってるし(こっちにはあるけど)このオトナで穏やかな雰囲気はまさに理想のタイプ。
今までほとんど接点がなかったのに一緒にカフェに行けるのならむしろ向田くんに感謝してやってもいい。
「飲み物を一杯飲んだらお役御免になるから安心して。カフェはここのもう少し先。5分くらい歩いてもらうけどいいかな」
小林さんは私の足元を気にするように視線を落とす。
そんなことまで気にしてくれる男性は初めてなんだけど。
「大丈夫です。何分でも歩けますよ。お気遣いありがとうございます」
「そう、よかった。じゃあ行こうか。その横断歩道を渡って直ぐの通りを左に曲がったら暫く真っ直ぐ」
「はい」
ウキウキが止まらない。
声を掛けてくれる。
「はい」と頷いて肩を並べて歩く。
本当に申し訳ないけれど、憧れの小林さんに助けてもらった上に一緒に歩けるだなんて夢のよう。
角を曲がると「追いかけては来なかったな」とチラリと背後を確認した小林さんが私に微笑みかけてくれる。
「しつこくされてたみたいだから声を掛けてしまったけど、これでよかったかな」
「はい、助かりました。本当にありがとうございました」
「さっきの彼、大島さんの知り合い?」
「ええ。一応高校の同級生です」
「一応って事はさほど親しくない関係だと理解していいのかな」
「そうですね。同窓会で10年ぶりに再会したんですけど、高校時代もその時もたいした会話はしてないです。だからあんなに親しげにされてもって感じでかなり困ってたんです。しつこくされることに心当たりがないというか」
「そう。助けられたのならよかったよ。それに、彼、キネックス社の社員じゃないかな。大島さんは知ってた?」
キネックス社?と首を傾げると、小林さんが
「知らないならいいよ。大島さんは健康管理部だからビジネス絡みのことはよくわからないよね」と頷いてくれた。
同窓会の時に自分はどこの会社で何をしてるなんて言ってた人もいたけれど、私はろくに聞いていなかった。森山君も誰かに二次会の時に聞かれてたけど、サラリーマンしてるって言っただけでどこに勤めてるかなんて言ってなかった。
「それで、大島さんはこのあと予定ある?」
「いいえ。向田君の誘いを断わるために言ったでまかせなので」
家にまっすぐ帰るだけ。家事をするだけで何の予定もない。
これじゃあ憧れの人に寂しい女だと思われちゃうかなとちょっと気持ちが下降してしまう。
「だったらちょっとだけ付き合ってもらってもいいかな。実は上司の命令で今から新規開業するカフェのオペレーションテストに行くことになっていてね。できれば誰かを同伴して行くようにって言われてたんだ」
「カフェのオペレーションテストですか」
「そう。部下を連れてってもよかったんだけど、みんな忙しそうにしていたから、結局一人で行くところだったんだ。これならちょうどさっきの彼の誘いを断わる理由になるんじゃないかな」
小林さんはそう言って笑顔を浮かべた。
マジですか。なんて親切な人なんだろう。
小林さんのスマートなお誘いに私の方は断わる理由などない。
「小林さんさえよろしかったらぜひお願いします」
もちろん、こんなチャンス逃す手はない。
小林さんに下心がないことはわかってるし(こっちにはあるけど)このオトナで穏やかな雰囲気はまさに理想のタイプ。
今までほとんど接点がなかったのに一緒にカフェに行けるのならむしろ向田くんに感謝してやってもいい。
「飲み物を一杯飲んだらお役御免になるから安心して。カフェはここのもう少し先。5分くらい歩いてもらうけどいいかな」
小林さんは私の足元を気にするように視線を落とす。
そんなことまで気にしてくれる男性は初めてなんだけど。
「大丈夫です。何分でも歩けますよ。お気遣いありがとうございます」
「そう、よかった。じゃあ行こうか。その横断歩道を渡って直ぐの通りを左に曲がったら暫く真っ直ぐ」
「はい」
ウキウキが止まらない。