シークレットの標的(ターゲット)
ワンプレートに前菜が綺麗に盛り合わせられている。
いかにも写真映えしそうだ。
「ところで、さっきの男の話をしていいかい。食べながらでいいから」
「はい」
ウキウキしていたけれど、小林さんの様子に背筋を伸ばした。
「そんなに緊張しなくていいよ」と笑われる。
そういえば『キネックス社のーー』って小林さんは向田くんのことを知っているようだった。
「肉も美味しそうだよ」とちょうど運ばれてきたメインのお肉の乗った大皿に小林さんは表情を緩めた。
確かにソースの香りと共にジュウジュウと音を立てている熱々のステーキは美味しそう。
あらかじめ食べやすくカットされたリブステーキを取り分けて小林さんの前に置く。
「ありがとう。冷めないうちに食べよう」と言われて私も自分の分を取り分けて口に運んだ。
うん、柔らかくて美味しい赤身のお肉だ。
ニンニクの香りも強すぎずちょうどいい。
小林さんも「予想以上にうまいな」と驚いたようだ。
カフェと言うより料理メインでいけるのではと思う。
「今までも彼とは何回か会っているの?」
料理に気を取られていたけれど、小林さんの言葉に現実に戻る。
「高校を卒業してから会ったのは先月の同窓会で会っただけです。それまでもそのあとも会ってないです」
「立ち入ったことを聞くけど、連絡先の交換とかは?」
「向田くんには何も教えてないです」
小林さんは「そうか」と言ってちょっと考えるような仕草をしたけれど、すぐに私に視線を戻した。
「実は少し前に立ち上げたうちのプロジェクトがキネックス社が競合関係になってね。彼がその担当部署にいたんじゃないかと記憶してるんだ。まあだからなんだって話なんだけどね」
「小林さんもそれに関係が?」
「いや自分は関与してない。ただちょっと気になることがあって動向を注視してた。だから彼に気が付いたんだけど、向こうはこちらのことは知らないと思うよ」
向田君がうちと関係のある会社に勤めてるなんて知らなかったけど、向こうも私の勤務先は知らないはず。
・・・はず?
あの日、西野さんが同業者だと知って2人で盛り上がって喋ったときに大学病院勤務の西田さんには企業で産業ナースをしていると言ったけれど、離れた席にいた向田君にも聞こえていた可能性はある。
「関係ないとは思うけど、このタイミングで彼が大島さんに接触を図っていたことがちょっと引っかかってね。今あの会社とうちは微妙な関係になっているから気をつけるに越したことはないと思って」
小林さんの口から飛び出した”微妙な関係”という単語が気になってフォークを持つ手が止まる。
「まあ取引先の変更や上層部の交代なんてどこの企業にもあることだよ」
さらりと言われた内容が医療職の私には理解しにくい。
ビジネスの世界は生き馬の目を抜く人たちばかりの厳しいところだって事なんだろうか。
いかにも写真映えしそうだ。
「ところで、さっきの男の話をしていいかい。食べながらでいいから」
「はい」
ウキウキしていたけれど、小林さんの様子に背筋を伸ばした。
「そんなに緊張しなくていいよ」と笑われる。
そういえば『キネックス社のーー』って小林さんは向田くんのことを知っているようだった。
「肉も美味しそうだよ」とちょうど運ばれてきたメインのお肉の乗った大皿に小林さんは表情を緩めた。
確かにソースの香りと共にジュウジュウと音を立てている熱々のステーキは美味しそう。
あらかじめ食べやすくカットされたリブステーキを取り分けて小林さんの前に置く。
「ありがとう。冷めないうちに食べよう」と言われて私も自分の分を取り分けて口に運んだ。
うん、柔らかくて美味しい赤身のお肉だ。
ニンニクの香りも強すぎずちょうどいい。
小林さんも「予想以上にうまいな」と驚いたようだ。
カフェと言うより料理メインでいけるのではと思う。
「今までも彼とは何回か会っているの?」
料理に気を取られていたけれど、小林さんの言葉に現実に戻る。
「高校を卒業してから会ったのは先月の同窓会で会っただけです。それまでもそのあとも会ってないです」
「立ち入ったことを聞くけど、連絡先の交換とかは?」
「向田くんには何も教えてないです」
小林さんは「そうか」と言ってちょっと考えるような仕草をしたけれど、すぐに私に視線を戻した。
「実は少し前に立ち上げたうちのプロジェクトがキネックス社が競合関係になってね。彼がその担当部署にいたんじゃないかと記憶してるんだ。まあだからなんだって話なんだけどね」
「小林さんもそれに関係が?」
「いや自分は関与してない。ただちょっと気になることがあって動向を注視してた。だから彼に気が付いたんだけど、向こうはこちらのことは知らないと思うよ」
向田君がうちと関係のある会社に勤めてるなんて知らなかったけど、向こうも私の勤務先は知らないはず。
・・・はず?
あの日、西野さんが同業者だと知って2人で盛り上がって喋ったときに大学病院勤務の西田さんには企業で産業ナースをしていると言ったけれど、離れた席にいた向田君にも聞こえていた可能性はある。
「関係ないとは思うけど、このタイミングで彼が大島さんに接触を図っていたことがちょっと引っかかってね。今あの会社とうちは微妙な関係になっているから気をつけるに越したことはないと思って」
小林さんの口から飛び出した”微妙な関係”という単語が気になってフォークを持つ手が止まる。
「まあ取引先の変更や上層部の交代なんてどこの企業にもあることだよ」
さらりと言われた内容が医療職の私には理解しにくい。
ビジネスの世界は生き馬の目を抜く人たちばかりの厳しいところだって事なんだろうか。