シークレットの標的(ターゲット)
怪しさが止まらない

翌朝、小林さんとのデートの余韻で高揚しっぱなしだったせいか、早朝に目覚めてしまったのでそのままの勢いでいつもよりも更に早い時間に出勤することにした。
電車も混んでないし、ラッキーラッキー。

更衣室に向かう前に救護室に行ったのは何か考えがあったわけじゃない。
ただ何となく、先に換気をしておこうかなと思っただけだったのだけど。

オフィスと救護室の間にある書庫の前で足を止めた。
こんな早朝に人の気配を感じる。

息を殺し耳を澄ましてみる。
スチール製の書棚の引き出しを開閉する音。そしてカサカサという紙を触る音。
確かに中に誰かいる。

ここには紙のカルテなどが収納されている。
今はほとんどが電子化されているけれど、未だに紙を使用するものもあるためだ。

この部屋の鍵は主任のデスクの背後にあるキーボックスに置かれているため誰でも使用することができるけれど、書棚の鍵は書庫の鍵と別にあって一応個人情報保護対策で使用が管理されている。

・・・といっても鍵は同じキーボックスに置いてあり主任か私に許可を取って使用簿に記載すればいいだけなんだけど。

今は使用簿に記載したくなかった誰かが何かを見てるってこと?

誰が?なにを?何の目的で?

こんな時間に書庫にいるなんて普通じゃない。警備員を呼ぶべき?
恐怖感に襲われてゴクリと喉が鳴る。

それは思ったより大きな音で思わず鳴らした自分の方が驚き、右手に持っていた救護室の内鍵を落としてしまった。

チャリーン

硬質の金属音がして、あっと思ったときには目の前のドアから慌てた様子の宮本さんが飛び出してきた。

「え?宮本さんーーーなんで?」

目が合った途端、すごい目で睨まれ私は強い力で肩を押される。

「あんたのせいよっ」

いきなり押されたせいでバランスを崩しよろけてしまったけれど、何とか転ばずに踏みとどまった。

何、なんで?

宮本さんが何について言っているのか何をしたいのか、私には全くわからない。
宮本さんは見たこともないほど激高していた。

これ、ちょっとヤバイ感じじゃないかしら。
顔を赤くするほど怒りを湛えた宮本さんの姿に私の背筋に冷たいものが走る。
急いで逃げるべきだったと思うけど、もう遅い。

「あんたのせいで、あんたのせいで!あんたさえ情報をくれてたらっ」
私を睨む血走った目が怖い。

「私が向田さんに捨てられたら全部あんたのせいよっ!」

大声で叫んだ宮本さんは私に思い切り体当たりをしてフロアの外に向かって飛び出していった。

除ける暇はなかった。
突き飛ばされた私は今度は踏みとどまることができず、背後の壁に背中と腰をしたたかに打ち付けた。
だんっと壁にぶつかった音と衝撃で私は小さく悲鳴を上げた。

痛っ。


後頭部を打たなかっただけましだけど、背中と腰、おまけに右足首に痛みが走る。

わけのわからないことで突き飛ばされて右足首を捻っちゃうなんて最悪だ。




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