シークレットの標的(ターゲット)
「大島さん、大丈夫?!」
パタパタとした靴音と同時にノックなしで入ってきたのは松平主任だった。

「大丈夫なの?痛みは?」

「足は痛みますけどたいしたことないです。小池さんが完璧に処置してくれましたし」

そうよかったと主任はホッとしたように息を吐いた。
「先生が出勤してきたら診察してもらうとして、何があったか聞いてもいい?」

「それなんですけどーーー」

小池さんはまだ戻って来ていない。
早口で昨日の向田くんとのことから小林さんに助けてもらったこと、宮本さんが飛び出していったことまでを伝えた。

「書庫からって言ったわね」

「はい。中から聞こえてきた音はたぶん、書棚のファイルを探っていた音なんじゃないかと思うんですよね。書庫は工藤さんに言われて施錠しておきましたけど、書庫の鍵も書棚の鍵もなくなっていたので書庫はスペアキーを使いました」
鍵はおそらく宮本さんが持ち出したままになっているのだろう。

「わかったわ。ありがとう。それで、宮本さんのことだけど、もう少し詳しく教えてくれる?」

「はい。このところ彼女から声を掛けられることが多いなとは思っていたんですよね。そのほとんどが緒方さんの事で。特にここ一週間はしつこいほどでした。だからてっきり彼のことが好きなんだと思って彼のことは話したくないとか彼が好きなら直接言えって言っちゃったんです。でも、さっき小池さんが宮本さんにはお付き合いしてる人がいるって言ってました・・・それに彼女の口から向田って名前が出てきたし・・・私には何が何だか。私のせいでってそもそも私が何をしたって言うんでしょうか」

「宮本さんにお付き合いしている人ねーー」ふうんと主任が小さく呟いた。

「大島さんが昨日その同級生の向田って人と会ったのは偶然なのよね?」

「そうです。私自身は彼に自分の勤務先を言ったつもりはなかったんですけど、もしかしたら話の流れで他の同級生に話していたのを聞かれてたって可能性はあります」

「そうか-」
ちょっと何かを考える仕草をして、「大島さん」と私に向き直った。

「はい」
「あとで私と一緒にタヌキのところに行きましょう。そこで話すわ」

はあと頷きちょっと黙る。

「納得がいかないって顔ね」

「ええ、まあ」

「そうでしょうね。でも、今すぐにここで話すような内容じゃないからちょっと待ってもらうしかないの。ごめんなさいね」

そうでしょうね。
まだ遠いけれど自動ドアの開閉音と数人の話し声が聞こえてきているし。


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