シークレットの標的(ターゲット)

入れ替わりにお茶を持った小池さんが戻ってきて、ありがたくお茶をいただいた。

「そういえば、私に渡したいものって何だったの?」

「そう!わたしの用事はそれでした」

ぱあっと笑顔になった小池さんが周囲をチラチラと確認すると、自分の荷物から鮮やかなオレンジ色の封筒を取り出した。

「これ、パーティーの招待状のお礼です。緒方さんと一緒にどうぞ」

「え?どうしたの?これ何」

「実はですね、パーティーに着ていくドレスを探しに行った先で知り合った人が有名なブランドのデザイナーだったんです。おまけに彼、そこの経営者一族でーーー」

へ、へえ~。
小池さんが話しながら夢見る乙女のように目を潤ませもじもじとさせている。

「それでー、今度のパーティーに自分がデザインしたドレスを着て一緒に行って欲しいって言われちゃってぇ~」

緒方さんの招待状がきっかけとなってセレブな方と知り合いになれたってこと。

「よかったね」
よかったんだよね?

「はいっ。それで、これ招待状のお礼と今まで迷惑をかけたお詫びなんです。彼のおうちが経営しているレストランのペアディナー券です。ぜひお二人で行って下さいね」

「でもこれ、私が受け取っていいのかしら」

お礼とお詫びなら緒方さんに渡した方がいいんじゃないかと思うんだけど。

「だって、もちろん大島さんこれ緒方さんと一緒に行きますよね。それに、自分の彼が他の女からプレゼント貰ったら嫌じゃないですか。わたし、そういう非常識なことはいたしません」

そう?そう?!そうなのか。

「それ、早くしまってもらっていいですか。実はそのレストラン期間限定で営業してる特別なお店なんです。予約が取れなくて高額でネット転売されてるようなものなので私が持ってるって他のスタッフに知られたくなくて。それもあって今日早朝出社したんですよ」

小池さんは私に封筒を押しつけて早くバッグにしまえと迫ってくる。
えええ。
「そんなものをもらってもいいのかしら」

「いいんです。私は緒方さんと大島さんのおかげでセレブな世界へと繋がりを持てましたから」

小池さんが嬉しそうな笑顔になる。
ぶれないなー。

押しつけられた封筒をよく見ると、誰でも知っているような高級ブランドのロゴが描かれていて思わず息を呑む。
え、これってーーーマジか。

「ね、ですから早くしまって下さい。ね」

小池さんの笑顔の圧に負けて「ありがとう」と受け取ってしまったけど、受け取ってよかったんだろうか。
緒方さんが帰国したら相談するか・・・。


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