シークレットの標的(ターゲット)
「で、常務は18階で下りたのかしら」

全くもってその通り。

「はい」と頷くと「待ちきれずに動き出しちゃったのね。仕方ないわ、私たちが説明しましょ」と谷口さんは工藤さんを促した。

「わかりました」と工藤さんが即座に私の目の前のソファーに座り、手にしていたファイルを開いてテーブルの上に資料を並べていく。

「ちょっと話が長くなるけど、いいかしら。足の方は大丈夫?怪我は下に下ろしておくとよくないって聞いたから膝掛けを用意してあるの。お行儀悪くもなんともないからオットマンに足を上げて頂戴ね」

このオットマン、もしかしてわざわざ用意してくれたんだろうか。
どう見てもこの部屋にもともとあったものとは思えない。

谷口さんに遠慮する私のスニーカーを脱がされ、大判の毛布みたいな膝掛けを掛けられてしまったのでありがたく捻挫した足を上げさせてもらった。

「では僕から説明させていただきます」と工藤さんが話し出した。

「まず、海外事業部の新規事業の情報が漏れたことから始まりました」

私の頭の中に??マークがたくさん浮かぶ。

それ、私に関係があるのかしら。
それに私がそんな話を聞いていいのかしら。

「うん、疑問に思うことはあると思うけど、暫く聞いて欲しいの」

疑問が表情に出ていたのか谷口さんにそう言われて頷いた。

「じゃあ続けますね」と工藤さんがまた話し始めた。

「この方のことはご存知ですか」

目の前に差し出されたのはスーツ姿の若い男性の写真だった。
ご存知どころじゃないこれは森山君だ。

「ええ。高校の同級生ですね。卒業後から最近まで付き合いはなかったですけど」

「最近会いましたよね。彼が緒方と一緒にいるときに。それと同窓会でしたっけ」

どういうこと?どうしてそんなことを工藤さんが知っているのだろうか。

「実は、森山さんの会社と我が社ではじめようとしていた事業の情報が漏れているという事件が起きまして。原因を探っているうちに故意に漏らした人物がいるのではないかと」

ん?なんだかこの先の話を聞くのが怖くなってきた。
話が大きくなってきて自分に関わる話なのか信じられない。

「我が社の担当者の線だけでなく森山さんの線も疑わざるを得ませんでした。彼らに接触して情報を盗む、スパイのような人物がいるのではないかということがわかり調べるとすぐに該当者が割れました。それは森山さんと同じ部署の人間だったんですが、その後も些細なものですがちょっとした情報漏洩がありまして我が社の社員も疑われることになったのです」

工藤さんは淡々と話を進める。

反対に私は底知れぬ嫌な予感に寒気がしてきた。

・・・もしかして。

「初めに疑われたのは大島さんと同じ部署にいる小池まどかさんです。担当者に対する過剰な接触と声掛けがありましたからね。ただ森山さんと親しそうな大島さん、あなたのことも疑ってしまいました」

やっぱり・・・。
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