シークレットの標的(ターゲット)
顔色をなくした私に工藤さんが慌てる。
「いえ、最初だけです。本当に初めだけですから。健康管理部はある種の個人情報を手に入れることができる部署ですし、森山さんの知人ということでもあったので警戒させていただいたというわけです。ですが、すぐに緒方さんが大島さんではないと断言しましたし、森山さんの知人と言うだけで疑う理由はなかったのですぐに除外させていただきました」
すぐに除外されたといっても疑われたなんてやっぱり気分はよくない。
先月、久しぶりに会った森山君に声を掛けられたのは会社から少し離れたところにあるバーだった。
その時、森山君の隣にいたのはーーー緒方さんだった。
そして、
私が森山君と一緒に行った同窓会の二次会のお店に現れたのもまた緒方さんだ。
私は彼から疑われていたってことだ。
彼が私に近付いたのはスパイかどうか見極めるためだったってことがよくわかった。
だとしたら身体の関係なんて持つべきじゃない。
それなのに。
それとも身体から懐柔してスパイかどうか確かめようとしたのか。
緒方さんの倫理観ってどうなっているんだろう。
しつこく友人関係になろうだなんて言ったのもまだ疑っていたからに違いない。
「ごめんなさいね。本当にあなたにとっては失礼な話なんだけど、どこの企業にも多かれ少なかれこんなことがあって。知らせずに終わってしまえばよかったんだけど、あなたが怪我を負わされた以上事情を説明した方がいいと思って。この先にも何かあったら大変だし」
谷口さんが本当に申し訳ないと謝ってくれる。
谷口さんが悪いわけじゃないのに込み上げてくるモヤモヤ感に「はい」とも「いいえ」とも言うことができず私は首を横に振って俯いた。
緒方さんからずっと疑われていたんだと思うと悔しさと納得できないイライラが込み上げてくる。
「話を続けますがーーー」と工藤さんが申し訳なさそうに話し始める。
そんなタイミングを見計らったように谷口さんは席を外し静かに常務の執務室を出て行った。
「その後に森山さんサイドから『向田』という怪しい人物が浮上したことで事態が動きました。向田が森山さんの同僚女性を騙して情報を手に入れていたことがわかりました。その後も向田は情報を盗む目的で動いていることがわかって森山さんと緒方さんの共通の知人である大島さんに近付く可能性があると警戒していたんですが、まさか宮本さんに接触していたとは。こちらの情報不足でした」
「じゃあ昨日向田くんが私に話しかけてきたのって・・・そう言う意味だったんですか」
「間違いなくそうでしょうね。暫く前から森山さんと緒方さんの仕事に関しての情報はほとんど手に入らなくなっていたでしょうから、焦っていたんでしょう。直接大島さんにアプローチをかけて情報を得ようとしたか、もしくは大島さんをたらし込んで緒方さんから聞き出させようとしたか。いずれにしてもあの場に小林さんが現れたことで失敗しましたが」
昨日の向田君はしつこくて様子がおかしいとは思ったけど、そんなことを考えていたんだなんて。
「いえ、最初だけです。本当に初めだけですから。健康管理部はある種の個人情報を手に入れることができる部署ですし、森山さんの知人ということでもあったので警戒させていただいたというわけです。ですが、すぐに緒方さんが大島さんではないと断言しましたし、森山さんの知人と言うだけで疑う理由はなかったのですぐに除外させていただきました」
すぐに除外されたといっても疑われたなんてやっぱり気分はよくない。
先月、久しぶりに会った森山君に声を掛けられたのは会社から少し離れたところにあるバーだった。
その時、森山君の隣にいたのはーーー緒方さんだった。
そして、
私が森山君と一緒に行った同窓会の二次会のお店に現れたのもまた緒方さんだ。
私は彼から疑われていたってことだ。
彼が私に近付いたのはスパイかどうか見極めるためだったってことがよくわかった。
だとしたら身体の関係なんて持つべきじゃない。
それなのに。
それとも身体から懐柔してスパイかどうか確かめようとしたのか。
緒方さんの倫理観ってどうなっているんだろう。
しつこく友人関係になろうだなんて言ったのもまだ疑っていたからに違いない。
「ごめんなさいね。本当にあなたにとっては失礼な話なんだけど、どこの企業にも多かれ少なかれこんなことがあって。知らせずに終わってしまえばよかったんだけど、あなたが怪我を負わされた以上事情を説明した方がいいと思って。この先にも何かあったら大変だし」
谷口さんが本当に申し訳ないと謝ってくれる。
谷口さんが悪いわけじゃないのに込み上げてくるモヤモヤ感に「はい」とも「いいえ」とも言うことができず私は首を横に振って俯いた。
緒方さんからずっと疑われていたんだと思うと悔しさと納得できないイライラが込み上げてくる。
「話を続けますがーーー」と工藤さんが申し訳なさそうに話し始める。
そんなタイミングを見計らったように谷口さんは席を外し静かに常務の執務室を出て行った。
「その後に森山さんサイドから『向田』という怪しい人物が浮上したことで事態が動きました。向田が森山さんの同僚女性を騙して情報を手に入れていたことがわかりました。その後も向田は情報を盗む目的で動いていることがわかって森山さんと緒方さんの共通の知人である大島さんに近付く可能性があると警戒していたんですが、まさか宮本さんに接触していたとは。こちらの情報不足でした」
「じゃあ昨日向田くんが私に話しかけてきたのって・・・そう言う意味だったんですか」
「間違いなくそうでしょうね。暫く前から森山さんと緒方さんの仕事に関しての情報はほとんど手に入らなくなっていたでしょうから、焦っていたんでしょう。直接大島さんにアプローチをかけて情報を得ようとしたか、もしくは大島さんをたらし込んで緒方さんから聞き出させようとしたか。いずれにしてもあの場に小林さんが現れたことで失敗しましたが」
昨日の向田君はしつこくて様子がおかしいとは思ったけど、そんなことを考えていたんだなんて。