シークレットの標的(ターゲット)
「じゃあ今朝の宮本さんは・・・」
「間違いなく向田に何でもいいから緒方さんの情報を手に入れろとでも言われていたのかもしれませんね。さっき松平主任に聞いたのですが、あの書庫の書棚の中には個人カルテが入っているんだそうですね」
「そうです。健診では使用しませんが、どこかに紹介受診した場合など、電子メールではなく書面で紹介状の返事が来ることもありますからその保管を・・・」
言いながらはっと気付いた。
「もしかして目的は緒方さんの予防接種記録とか自宅住所や電話番号ですか?」
どこに出張しているのかとしつこく聞いてきた宮本さん。
社内規定で必要に応じて事前に予防接種をしてから渡航する事になっている。
欧米地域ならあまり問題にならないけれど、問題はアフリカや中南米、東南アジアなど狂犬病や黄熱など特殊なワクチンを接種する必要がある地域があるのだ。
出張前に何のワクチンをうっていくかでどこの地域に行くかなんとなく想像が付くこともあるかもしれない。
社員の住所も厳重に管理している。
人事や総務以外でわかるのは健康管理部だ。それも厳重に管理されていて電子カルテを開けるのはドクターと松平主任と私だけ。
だから書庫の保管された紙カルテの中に緒方さんの名前を探していたのか・・・。
「おそらく」と工藤さんは頷いた。
「向田は追い込まれていましたから、宮本さんにも突き放すような言い方をしたんだと思います。その結果、偶然とはいえ書庫にいるところを見られた大島さんに八つ当たりのようなことをしていったんでしょね」
向田くんのことが好きな宮本さんが情報を探して人目に付かない時間に書庫に入り込んだ。そこにたまたま私が居合わせてしまった。
「とまあ大島さんにお話しできるのはこんなところです。詳細にお教えできなくて申し訳ありません」
いいえ、と私は首を横に振った。
「愉快な話じゃなくてごめんなさい。でももうあなたに危害が加わるようなことはないと思うの。それだけは安心してね」
新しく淹れ直された三人分のお茶を持って谷口さんがソファーに戻ってきた。
「どうぞ。よかったらこのきんつばも召し上がってみて。とーっても美味しいのよ」
そう言って谷口さんが真っ先にきんつばを口に入れた。
「大島さんもお早くどうぞ、常務に見つかるとうるさいですから」
表情を緩めた工藤さんもつまんでパクリ。
こんな話を聞いた後で食欲はないのだけど、お二人に早く、早くと促されて私もぱくりと口に入れた。
あ、美味しい。
うん、なんだか私の知ってるきんつばと少し違うような。
あんこを包んでいる白い皮みたいなものがもちもちとしてあんこと同じくらい自己主張してくる。
きんつばの白いところってもっと薄いものじゃなかったかな。
でも、美味しい。
このもちもち感がクセになりそう。
緩んだ私の顔に気が付いた谷口さんが微笑んだ。
「ね、美味しいでしょう。これ常務が隠し持ってたおやつだから美味しくて当然なのよ」
不穏な言葉に私の目が点になる。
じょ、常務のおやつですか?!
しかも隠し持ってた??
「さ、これでタヌキの血糖値対策もしたし、あとはいい報告を待つばかりね」
「そうですね」
目の前のお二人は満足そうにきんつばを食べお茶を飲んでいる。
いい報告ってなんだろう。
でも私が聞いちゃいけないような内容だろうし。
一応事情もわかったし、そろそろお暇した方がいいような気がする。
でも一つだけ確認したいことがある。
「あの、宮本さんのことなんですけど、何か処分があるんでしょうか」
「気になるわよね、やっぱり」
谷口さんの表情が曇った。
「間違いなく向田に何でもいいから緒方さんの情報を手に入れろとでも言われていたのかもしれませんね。さっき松平主任に聞いたのですが、あの書庫の書棚の中には個人カルテが入っているんだそうですね」
「そうです。健診では使用しませんが、どこかに紹介受診した場合など、電子メールではなく書面で紹介状の返事が来ることもありますからその保管を・・・」
言いながらはっと気付いた。
「もしかして目的は緒方さんの予防接種記録とか自宅住所や電話番号ですか?」
どこに出張しているのかとしつこく聞いてきた宮本さん。
社内規定で必要に応じて事前に予防接種をしてから渡航する事になっている。
欧米地域ならあまり問題にならないけれど、問題はアフリカや中南米、東南アジアなど狂犬病や黄熱など特殊なワクチンを接種する必要がある地域があるのだ。
出張前に何のワクチンをうっていくかでどこの地域に行くかなんとなく想像が付くこともあるかもしれない。
社員の住所も厳重に管理している。
人事や総務以外でわかるのは健康管理部だ。それも厳重に管理されていて電子カルテを開けるのはドクターと松平主任と私だけ。
だから書庫の保管された紙カルテの中に緒方さんの名前を探していたのか・・・。
「おそらく」と工藤さんは頷いた。
「向田は追い込まれていましたから、宮本さんにも突き放すような言い方をしたんだと思います。その結果、偶然とはいえ書庫にいるところを見られた大島さんに八つ当たりのようなことをしていったんでしょね」
向田くんのことが好きな宮本さんが情報を探して人目に付かない時間に書庫に入り込んだ。そこにたまたま私が居合わせてしまった。
「とまあ大島さんにお話しできるのはこんなところです。詳細にお教えできなくて申し訳ありません」
いいえ、と私は首を横に振った。
「愉快な話じゃなくてごめんなさい。でももうあなたに危害が加わるようなことはないと思うの。それだけは安心してね」
新しく淹れ直された三人分のお茶を持って谷口さんがソファーに戻ってきた。
「どうぞ。よかったらこのきんつばも召し上がってみて。とーっても美味しいのよ」
そう言って谷口さんが真っ先にきんつばを口に入れた。
「大島さんもお早くどうぞ、常務に見つかるとうるさいですから」
表情を緩めた工藤さんもつまんでパクリ。
こんな話を聞いた後で食欲はないのだけど、お二人に早く、早くと促されて私もぱくりと口に入れた。
あ、美味しい。
うん、なんだか私の知ってるきんつばと少し違うような。
あんこを包んでいる白い皮みたいなものがもちもちとしてあんこと同じくらい自己主張してくる。
きんつばの白いところってもっと薄いものじゃなかったかな。
でも、美味しい。
このもちもち感がクセになりそう。
緩んだ私の顔に気が付いた谷口さんが微笑んだ。
「ね、美味しいでしょう。これ常務が隠し持ってたおやつだから美味しくて当然なのよ」
不穏な言葉に私の目が点になる。
じょ、常務のおやつですか?!
しかも隠し持ってた??
「さ、これでタヌキの血糖値対策もしたし、あとはいい報告を待つばかりね」
「そうですね」
目の前のお二人は満足そうにきんつばを食べお茶を飲んでいる。
いい報告ってなんだろう。
でも私が聞いちゃいけないような内容だろうし。
一応事情もわかったし、そろそろお暇した方がいいような気がする。
でも一つだけ確認したいことがある。
「あの、宮本さんのことなんですけど、何か処分があるんでしょうか」
「気になるわよね、やっぱり」
谷口さんの表情が曇った。