シークレットの標的(ターゲット)
「望海、頼むからちょっと落ち着いて」

宥めるように前腕を掴まれて
「触らないでよ」と身体を捻ってばたばたと抵抗する。男性の力はやはり強くてなかなか外れない。
その弾みで思わず右足首に力を入れてしまった。

「痛っ」
ずきんっと捻挫した場所から膝に向かって痛みが走る。
やばい、興奮して足首のこと忘れてた。なんてことだ。

「イタタタターー」と下ろしていた足を持ち上げてベッドに上げた。

「望海、大丈夫かっ。草刈先生を呼ぶか?」
慌てた緒方さんがおろおろしながらスマホを出そうとするから、慌てて止めた。

「捻挫してるの忘れて力を入れちゃっただけ。いちいちそんなことで先生に連絡しようとしないで」

そもそもあなたが強引なことしなかったらこんなことにはならなかったのだとじろりと睨むと緒方さんは肩をすくめて「すまない」と小さくなった。

「痛み止めとか何か必要な物はないか」

「いい。ちょっとズキッとしただけだし。湿布を貼っているから。ほっといて」

ふんっと冷たく突き放すと緒方さんが黙って立ち上がり玄関に向かって歩き出した。
ここまでいやな態度をすればさすがに帰るだろう、うんうんと頷いているとガチャリと玄関ドアの鍵を開ける音がして続いてドアの開閉音がした。

よかった。緒方さんは帰ったことだし、さて、不用心だから玄関の鍵を閉めに行くか。
立ち上がろうとしたら再びドアが開く音がしてガチャリと鍵を閉める音が。

え?
どういうこと?また入ってきた?
意味がわからない。
足音がして部屋の入り口を見つめていると、大型のスーツケースを持った緒方さんが戻ってきた。

「俺がここに泊まる」

何だって?

「幸い泊まれるだけの荷物もあるし。心配しなくていい。望海の世話は俺がする」

この人は何を言い出したんだろう。
もしかして時差ぼけで寝言?
もしかして長時間のフライトをして空港から真っ直ぐここに来たのだろうか。

「私の世話とかいらないから。早く帰って休んで」

「こんな大きなスーツケースは邪魔だろうと思ってとりあえず玄関の外に置いておいたんだ。荷物を自分の部屋に置いてから来ようかと思ったけど、そのまま来て正解だったな」

話が噛み合わない。
私の冷たい言い方に緒方さんは反応しないつもりか。
着替えも洗面用品もあるしと言いながらスーツケースを開けようとしている。

「ちょっと待った。世話とかいらないし。そんな重傷じゃないから」

「いいから、気にするなって。俺のせいで望海が怪我したんだし。俺が責任持って望海の世話するから」

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