シークレットの標的(ターゲット)
スーツケースがバタンと開かれてガサガサと部屋着を取り出しているから
「いやいや待って」と立ち上がろうとしてベッドの上で足を動かした。
「おっと、動くとまだ痛いだろ。おとなしく寝ろよ」
緒方さんがベッドに戻ってきて私の肩を押して寝かせようとする。
「ちょっと!」
両肩を押されてベッドに押し倒された。何するんだと抵抗すると、なぜだか緒方さんが見たことのないような悲しそうな顔をする。
「俺も責任感じてるんだって。何か償いをさせてくれ」
「償いがしたいんだったら一人にして」
ベッドに押し倒された格好のまま緒方さんの目をじっと見つめる。
世話を焼いてもらうほどの怪我じゃないし、今夜はもう寝るだけだ。
「望海、頼むから」
そのまま緒方さんの上半身がのしかかってきて彼の頭が私の肩口にコツンと当たって埋まった。
押し倒され抱きつかれているような格好に身体が熱くなる。
近い、近いよ。
「ーーー心配したんだ」
耳元でくぐもった緒方さんの声がする。
「たまたまタイミングよく帰国準備で首都に戻っていたから早く帰れたけど。常務から望海が怪我をしたって聞かされてぞっとした。向こうがそこまですると思ってなかった。俺の判断が甘かった。腹の底から寒気がして自分の甘さに吐き気がした」
予想外の苦しそうな緒方さんの声に私の胸がちょっと痛む。
ひどいこと言ったかもしれない。さすがにちょっと言い過ぎた・・・かな。
「ーーごめん。悪かった。ーーー望海の怪我は俺のせいだ」
呻くような声が私の胸に刺さる。
今の顔を見ることはできないけれど、玄関ドアを開けたときに見た焦った緒方さんの顔を思い出した。
彼は本気で心配してくれてたみたいだった。
でも、私を抱き込むようにしているから緒方さんの低音ボイスが耳に身体に悪いんだけど。
この人の声、すごくいいのよね。
「うん、緒方さんのせいよ」
きっぱりはっきりしっかり、言い切った。
私の上にいる緒方さんの身体が少しだけビクリと動いて、私はぷっと笑った。
「ねえ、重いからどいてくれる?けが人押し倒してどうするのよ。一応言っとくけど、アレはムリよ?」
冗談交じりで軽く言えば緒方さんはガバッと身体を起こして私を見た。
「そんな気はない」
真面目に返されて「わかってるよ」と満面の笑みでお返しした。
「ねえ、確かに宮本さんに突き飛ばされたけどさ。でもあれたいした力じゃなかったしタイミングが悪かったからよろけて捻挫しただけで、いつもならなんともなかったはずなのよ。捻挫って言ったって2、3日でよくなるくらいのやつよ?そんなに大袈裟にされたら私の方が恥ずかしいんだけど」
不服そうな顔をしている緒方さん相手に子どもに言い聞かせるように話す。
「だから緒方さんのせいだけど、緒方さんだけのせいじゃない。それにもう向田くんは私と会うことはないって工藤さんが悪そうな顔して言ってたし、宮本さんは退職になるかもってさっき主任から連絡あったよ」
それでも緒方さんの表情はかたい。
全然納得していないって顔をして、でも私の話は聞いてくれる。
なあんだ、落ち着いて話せば聞いてくれるじゃない。
「世話してくれるっていうのは嬉しいけど、お世話してもらうようなことは何もないし、この狭い部屋に大きな男性と二人でいるのはちょっとムリだから。
緒方さんはえーっと、どこに行ってたか知らないけど、それなりに遠いところから帰ってきたんでしょ。きちんと休まないと。だからもう帰って大丈夫よ?」
「そうかーー」
緒方さんは俯き呟くように返事をした。
「いやいや待って」と立ち上がろうとしてベッドの上で足を動かした。
「おっと、動くとまだ痛いだろ。おとなしく寝ろよ」
緒方さんがベッドに戻ってきて私の肩を押して寝かせようとする。
「ちょっと!」
両肩を押されてベッドに押し倒された。何するんだと抵抗すると、なぜだか緒方さんが見たことのないような悲しそうな顔をする。
「俺も責任感じてるんだって。何か償いをさせてくれ」
「償いがしたいんだったら一人にして」
ベッドに押し倒された格好のまま緒方さんの目をじっと見つめる。
世話を焼いてもらうほどの怪我じゃないし、今夜はもう寝るだけだ。
「望海、頼むから」
そのまま緒方さんの上半身がのしかかってきて彼の頭が私の肩口にコツンと当たって埋まった。
押し倒され抱きつかれているような格好に身体が熱くなる。
近い、近いよ。
「ーーー心配したんだ」
耳元でくぐもった緒方さんの声がする。
「たまたまタイミングよく帰国準備で首都に戻っていたから早く帰れたけど。常務から望海が怪我をしたって聞かされてぞっとした。向こうがそこまですると思ってなかった。俺の判断が甘かった。腹の底から寒気がして自分の甘さに吐き気がした」
予想外の苦しそうな緒方さんの声に私の胸がちょっと痛む。
ひどいこと言ったかもしれない。さすがにちょっと言い過ぎた・・・かな。
「ーーごめん。悪かった。ーーー望海の怪我は俺のせいだ」
呻くような声が私の胸に刺さる。
今の顔を見ることはできないけれど、玄関ドアを開けたときに見た焦った緒方さんの顔を思い出した。
彼は本気で心配してくれてたみたいだった。
でも、私を抱き込むようにしているから緒方さんの低音ボイスが耳に身体に悪いんだけど。
この人の声、すごくいいのよね。
「うん、緒方さんのせいよ」
きっぱりはっきりしっかり、言い切った。
私の上にいる緒方さんの身体が少しだけビクリと動いて、私はぷっと笑った。
「ねえ、重いからどいてくれる?けが人押し倒してどうするのよ。一応言っとくけど、アレはムリよ?」
冗談交じりで軽く言えば緒方さんはガバッと身体を起こして私を見た。
「そんな気はない」
真面目に返されて「わかってるよ」と満面の笑みでお返しした。
「ねえ、確かに宮本さんに突き飛ばされたけどさ。でもあれたいした力じゃなかったしタイミングが悪かったからよろけて捻挫しただけで、いつもならなんともなかったはずなのよ。捻挫って言ったって2、3日でよくなるくらいのやつよ?そんなに大袈裟にされたら私の方が恥ずかしいんだけど」
不服そうな顔をしている緒方さん相手に子どもに言い聞かせるように話す。
「だから緒方さんのせいだけど、緒方さんだけのせいじゃない。それにもう向田くんは私と会うことはないって工藤さんが悪そうな顔して言ってたし、宮本さんは退職になるかもってさっき主任から連絡あったよ」
それでも緒方さんの表情はかたい。
全然納得していないって顔をして、でも私の話は聞いてくれる。
なあんだ、落ち着いて話せば聞いてくれるじゃない。
「世話してくれるっていうのは嬉しいけど、お世話してもらうようなことは何もないし、この狭い部屋に大きな男性と二人でいるのはちょっとムリだから。
緒方さんはえーっと、どこに行ってたか知らないけど、それなりに遠いところから帰ってきたんでしょ。きちんと休まないと。だからもう帰って大丈夫よ?」
「そうかーー」
緒方さんは俯き呟くように返事をした。