シークレットの標的(ターゲット)


ぴぴぴーーーとアラームが鳴っている。
寝起きの悪い私は温かい布団にくるまれぼーっとしながら遠くアラームの音を聞いていた。

ーーまだ眠い。布団暖かくて気持ちいいしまだ寝たいーーー

「うー、もう朝か・・・」

近くない?!
かすれた低音ボイスが自分の背中から聞こえて飛び起きた。

「なんでここにいるのよ・・・」

私のベッドの中に緒方さんがいた・・・。
緒方さんが寝ていた床には私と一緒に寝ていたはずの豚のぬいぐるみの黒豚ちゃんが。

緒方さんは横向きで寝ていた私の背中にピッタリと張り付くようにして寝ていた。
いったいいつから。

ふわあっと気の抜けたあくびをして目を閉じたまま私の腰回りに腕を回して絡みついてきた。

ひゃあっと声が出てしまう。
「ヤダ、もう何してんのよ。セクハラ。ヘンタイ」

緒方さんの腕をペシペシと叩いてやるけれど、腕は離れない。それどころか更に力強くぬいぐるみでも抱くように絡みついてくる。

「もうっ、いい加減にしてっ」とバサッと掛け布団をめくりあげてーーー後悔した。

んー寒いと呟いて私を押し倒すとスリスリと頬ずりをはじめたのだ。

やば、デジャブか、これ。

「起きて、起きて、起きて起きて起きて」

耳を引っ張ってもバシバシと容赦なく叩いてみても反応は薄い。

んんっと鼻から抜けたような声を出して頬擦りは続く。
どうなってるの、この人の寝起きの悪さは。

このままじゃ前回の二の舞じゃん。またふにふにとされたらーーー今回は噛まないで殴ろう。

緒方さんの頬擦りが止まらずおへそまわりに来たところで爆発した。

「いい加減にしろ、ヘンタイー!」

やっぱり肩に噛みついた。

だって医療従事者としては頭を殴るわけにいかないし。



緒方さんは一度自宅に戻ってからの出勤だと言って私をタクシーで会社まで送ってから自分のマンションに戻っていった。

ええ、楽でしたよ。タクシー出勤なんて贅沢ができて。

タクシーの中では一言も口をきいてやらなかったけれども。



< 83 / 144 >

この作品をシェア

pagetop