シークレットの標的(ターゲット)
「俺の仕事とキネックス社とは直接的な関係がないのになぜって俺も疑問だったんだが、常務の話を聞いて納得したよ。キネックス社の馬鹿息子と馬鹿娘の話は有名だったからな」

「それなら私も聞いたことあるわ」

我が社の宝に手を出そうとしたキネックス社の馬鹿息子と世間知らずの娘の噂話が社員の中に流れてきたのは数ヶ月前だ。

キネックス社の馬鹿息子ことキネックスの社長の次男坊がうちの副社長の婚約者であるタヌキの飼育係こと谷口さんに一目惚れをした。
その次男坊というのがとんでもないヤツで、営業部長という地位を使っていろいろな会社の女性たちを強引に誘い、その気にさせてはひどい捨て方をしていたとか。

谷口さんは副社長に守られて無事だったけれど、馬鹿息子が次に目を付けたのは海外事業部のエース、『アクロスの薔薇の花』こと佐本由衣子さんだった。

おまけに馬鹿息子の妹というのがまたこれも馬鹿娘。(松平主任が彼女のことを『キネックス社の徒花』と言っていたのを聞いたことがある)

うちの国内営業部にいる佐本さんの恋人の高橋良樹さんに横恋慕した挙げ句、我が社に堂々と「高橋さんの婚約者」と名乗って現れ自分の兄と佐本さんのお見合いをセットしようとしていた。

それから間もなく週刊誌で馬鹿息子の無責任で奔放な女性関係の記事が載り、その非道な振る舞いとあまりの酷さは社長の息子という立場もあって社会から糾弾された。本当にクズ男だったらしい。

彼と関係した女性たちからもクズ話が次々とリークされ、馬鹿娘もいろいろやらかしていたらしくこれまた報道されてしまったということがあってキネックス社の一族は暫く世間を騒すニュースネタとなったことは記憶に新しい。

馬鹿息子と馬鹿娘のスキャンダルにキネックス社が計画していた大型の新規事業は頓挫させられ、株価は暴落、その後馬鹿娘はいろいろ噂のある金融系企業の社長と年の差婚したと聞いた。

結果的に佐本さんと馬鹿息子の見合い話はなくなり、あまりのタイミングの良さに社内では高橋さんが裏から表から手を回したのではないかという噂が囁かれていた。

「そんなことがあって情報漏洩の裏にキネックス社がいるんじゃないかって話になったけれどその時点ではまだ証拠がなかった。
初めはうちの会社がターゲットになっていると思わなかったから俺と森山に近付いてくるヤツのことはみんな疑ってたよ。キネックス社の関与がわかったのは望海とバーで会った翌週だ」

バーで会ったって、やっぱり森山くんに声を掛けられたあのあれか。

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