シークレットの標的(ターゲット)
「あの時から私のこと疑ってたのね」

わかりやすく緒方さんが目をそらした。
あそこで出会ったのは本当に偶然だったのに。

「で、いつ私の容疑は晴れたのかしら」

じろりと横目で見てやると緒方さんが大きくため息をついた。

「小池さんの件でバーで出会った望海が同じ会社の社員だって知った。すぐに望海の人となりを松平主任に問い合わせしたんだ。元々俺は小池さんが怪しいと思っていたからね、望海のことは疑うっていうより確認する程度のつもりだった。松平主任が望海は絶対に違うと言っていたし、俺もそう思ったからそのまま常務に報告した。だから同窓会の時はもう疑ってなかったよ」

「でも、二次会の居酒屋に現れたり、私と森山くんが一緒に帰ろうとしたのを邪魔したよね。やっぱりその後もまだ私のこと疑ってたんじゃないの」

疑ってないはずはない。
だったらどうして居酒屋に現れて私を自分のタクシーに乗せたというのか。
納得が出来ない私は追求をする。

「居酒屋に行ったのは森山から同級生の中に妙に接触してくる怪しいヤツがいるって連絡があったからだよ」

「それってーーー」

「そう、向田だ」

「向田くんがキネックス社の社員だって知ったのはいつ?」

「同窓会中の森山から連絡がきてすぐに調べた。キネックス社の社員でしかもあの馬鹿息子の部下だった」

「キネックス社が森山くんと緒方さんの仕事を狙って邪魔してきたのはうちの会社に恨みがあったからってこと?」

「そうだな。キネックス社の上層部はうちの会社を恨んでいた。ーー向田は元々は仕事が出来る男だったらしいよ。だが何か馬鹿息子から弱みを握られていて、うちの会社に不利になる情報を仕入れてくるように強要されていたそうだ。森山に振られて腐っていた女子社員をそそのかして情報漏洩させたのも向田だった」

でも、だったらもっと早く向田くんを止めていてくれたら宮本さんがあんな風になることはなかったんじゃないかって思ってしまう。

「でもまだ緒方さんの話はいろいろとつじつまが合わないことが多いのよ、わかってる?」

じっと見つめると緒方さんの目がかすかに泳いだ。

私のこと疑っていないと言っていたけど、森山くんと同じタクシーに乗ろうとしたら邪魔されたし、会社でも彼につきまとわれていた。

どう考えてもまだ疑われていたのだと思う。

「私の立場はなんだったの。スパイ疑い?女除け?それとも囮?それともそれ全部?」

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