シークレットの標的(ターゲット)
「とりあえず、食べないか。せっかく常務のコネを使って取り寄せたんだし」

「ーーじゃあ、疑ったお詫びとしてならごちそうになるわ。せ、せっかくだし」

明らかに料理につられた私。
お詫びとしてならいいよね、うん、たぶん。
料理には罪はないし、食べてもらえなかったら料理が可哀想。

緒方さんの告白も今は忘れていいって言ってくれたし。
申し訳ないけど、落ち着いて考えられるようになるまで私の頭の中から追い出させていただこう。


温め直すだけだからと言われておとなしく料理を並べてくれるのを待つことにした。

「ーーーねえ、結局キネックス社はどうなったの。工藤さんももう向田くんは私の前に現れないって言ってたし、主任はキネックスは吸収されてなくなったって言ってたけど」

キッチンでテキパキと準備をする緒方さんの背中に話しかけた。

「ああ、あそこは常務が影で主導してうちの関連会社が吸収したよ。常務は結構前から準備してたみたいだな。向田は首にして野放しにするよりもそのまま雇用して僻地で働かせて見張ることにしたみたいだ。あいつもキネックスのバカ息子に弱みを握られていたから仕方なくやったみたいだし。その弱みが何だったかは知らないけど、常務がそのまま雇用するって決めたってことは向田に情状酌量の余地があるとか鍛え直せば使えるようになる可能性があるとか何かあるんだろうな」

吸収したーー軽い感じで言ってるけど、それって大事なんじゃないのかな。
キネックス社ってそこそこに大きな企業だと思うんだけど。

あの大きな風呂敷みたいな布を持ち福福とした笑顔を浮かべてエレベーターをおりていった常務の姿と企業を動かす真の姿をうまく重ねることができない。

狸の皮を被った虎なのだろう。信じられないけど。

「常務室の秘書さんや海外事業部のメンバーはどのくらい関わっていたの」

「それは常務秘書がキネックス社にって意味ならほとんど関わっていないな。なんと言ってもうちの康史副社長が婚約者の谷口さんをキネックス社に近付けるのをよしとしない。海事のメンバーにしても常務が声をかけたのは俺の知る限りほんの数人」

うー、なんだかモヤモヤする。

「常務には独自のルートがあるらしくて昼間18階にタヌキが出るときには何かが起こると言われている。キネックス社がTHコーポレーション傘下の子会社に吸収された今回もそのパターンだろうさ」

わが社の常務が動いた結果なのだけれど、直接うちの会社の子会社になったわけじゃないとか私にはわからないことだらけだ。
緒方さんもそれ以上は話す気がないようだし、私もおそらく聞いてもわからないだろうから聞くのはやめる。

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