シークレットの標的(ターゲット)
「見ていいよ。力を入れた上腕二頭筋を触りたいんでしょ。どうする?鎖骨近くの大胸筋の上の方も好きなんだっけ」

はい、その通りでゴザイマス。
でも触ったら変態扱いされないだろうか。

上目遣いで緒方さんの様子を伺う。

お互いの目が合い緒方さんが私の右手を握って自分の胸に押し当てた。

「はい、どーぞ。ご遠慮なく」

うわ、裸の大胸筋だーーー。

ぱつんと張った筋肉は大きすぎず適度に固い。
シャワーの後のせいで身体は温かいし、指先を揃えて押し込むように触ると弾力があって気持ちいい。

普段海外にいてジム通いとかしてなさそうだけど、緒方さんの身体は脱いだらすごい。

どうしたらこんなにきれいな筋肉がつくんだろうか。
大きすぎず小さすぎない。
実に理想的な筋肉だ。

簡単に誘惑に負ける自分が情けないけれど、誘ったのは緒方さんだ。
調子に乗ってふにふにと触っていると、緒方さんが笑い出した。

「あの晩みたいだな」

ハッとして手を離そうとしたところ、緒方さんに手首を掴まれる。

「俺は望海に黙っていたことがもうひとつある。わかるか?」

今度はお互いの視線が真っ直ぐ絡み合った。

「思い出さないか」

思い出す・・・?
思い出すって、あの晩のことだよね。

あの日は酔ってこの部屋にお邪魔して、夜食の鯛茶漬けをいただいて、デザートの赤ワインとチョコレートが美味しくてーーー朝だった。

・・・緒方さんが言いたいのは、おそらく朝になる前の話だよね。
朝の前ーーー
朝の前ーーーねえ。

うーん。
赤ワインを飲んでーーーあの赤ワイン美味しかったのよね。
口当たりがいいせいで泥酔しちゃったけど。

赤ワインを飲んで、
そういえば、料理の話をしたような・・・そのあとはお互いの話を・・・家族のこととか、趣味とか。あれ?趣味?

あ、何だかちょっと思い出したような。

二人とも酔っ払ってて、
私が筋肉好きだって言って、
緒方さんの腕とか胸とか触らせてもらって(勿論服を着たまま)
胸元を緩めたシャツの隙間から鎖骨の下に皮下出血を見つけて、キスマークじゃないのってからかったら、仕事中にぶつけたところだって言われて、
それでキスマークと打撲の皮下出血の話で盛り上がってーーー

あれ?

皮下出血。
キスマーク?吸引性皮下出血ーーー

ざらりと何かが頭の中に引っかかった。


「ねえ、もしかして、私たちーー」

気が付いてしまった1つの事実。
もしかして、もしかして・・・・。


「そう。やってない」

緒方さんはそう言って小さく笑った。


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