エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
彼がうなずき、運転手に行き先を伝えるとタクシーがゆっくりと発進した。
「信用してもらえなかったようで残念です」
田園調布の見慣れた風景が背後に流れていくなか、我慢できずに嫌味をこぼすと彼が首をかしげる。
「ん?」
「私が信用できないからタクシー代を貸してくれなかったんですよね?」
出会ったばかりの素性の知れない相手に、喜んでお金を貸す人はいないと頭では理解していても、塞いだ心は晴れない。
唇をキュッと結んで悔しい思いに耐えていると、彼が小さく笑った。
「そうじゃない。興味があるんだよ。キミにも、キミの彼氏にも」
「どうして?」
「さあ。どうしてだろうな」
彼が答えをはぐらかして長い脚を組む。
体にフィットしている黒のスーツはシワひとつなくて仕立てのよさがわかるし、身に着けている腕時計は誰もが知っている高級ブランドの物だ。
いったい彼は、何者なんだろう。
身を挺して酔っ払いを追い払い、手ぶらの私を心配してくれた彼に関心を寄せながら、黙ったままタクシーに揺られた。