エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
わざわざ職場まで訪れて待ち伏せするからには、大事な話があるのだろう。でも、私の方は今さら涼ちゃんと話すことなどなにもない。
「悪いけど……」
最悪な別れ方をしたあの日を思い出すと、どうしても親身になれず誘いを断ろうとした。けれど、抵抗する間もなく手首を掴まれてしまう。
丸の内のオフィス街では、ギターを背負っているだけでとても目立つ。涼ちゃんと一緒にいるところを同僚に目撃されて、職場で変な噂が立つのだけはなんとしても避けたい。
「わかったから、手を離して」
「そんなに嫌がらなくてもいいだろ」
不快な気持ちを隠しもせずに声をあげると、涼ちゃんが舌打ちをして手を離す。その横柄な態度に苛立ちを覚えたけれど、言い返して揉めるのは面倒くさい。
身勝手な涼ちゃんを相手にしても仕方ないと自分に言い聞かせて、カフェに向かった。
木目調のテーブルとイスが配置されたナチュラルテイストな店内を進み、案内された奥の席に座ってホットコーヒーをオーダーする。
「あのときは悪かったな」
「あのとき?」
ついさっきまで不機嫌だったのが嘘のように、神妙な面持ちで話し出した涼ちゃんに驚いたものの、なにに対して謝られているのかわからない。
首をかしげると、涼ちゃんが気まずそうに視線を落とす。