エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

「最後に会ったとき、美桜にひどいこと言ったからさ」

涼ちゃんの心ない言葉には傷ついたし、二股をかけられていた事実を思い出すだけで今も胸が痛む。

『気にしないで』とは言えずに口を固く結んでいると、コーヒーが運ばれて来た。

過去の非を詫びるために、私を訪ねて来たとは思えない。

コーヒーを飲んで本題が切り出されるのを待っていると、涼ちゃんが勢いよく頭を下げた。

「美桜、頼む。金を貸してくれ」

涼ちゃんの口から出たまさかの言葉に耳を疑う。けれど、顔を上げた表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。

「ど、どうして?」

元カノである私を頼ってくるなんて、よっぽど切羽詰まっているに違いない。

いったい、涼ちゃんの身になにが起きたのか気になって尋ねると、思いがけない答えが返ってきた。

「俺たち、メジャーデビューのオーディションに合格したんだ」

今までかしこまった態度を取っていた涼ちゃんが笑みをこぼす。

「おめでとう」

「サンキュ」

涼ちゃんとバンドメンバーは、メジャーデビューを目標に練習に励んできた。

その努力がようやく報われたのをうれしく思いながら、テーブルを挟んで笑い合う。しかしそれも束の間、白い歯を見せていた涼ちゃんの表情が曇る。
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