エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
目的地に到着したタクシーから降りて、マンションのエントランスで涼ちゃんの部屋番号を押す。しかし、しばらく待っても応答はない。
「合鍵は持っていないのか?」
「はい」
彼の言葉を聞き、首を縦に振る。
合鍵があれば涼ちゃんが留守のときに部屋に上がって、掃除や洗濯をしてあげられる。でも自分からねだるのは、はしたない気がして合鍵をほしいとずっと言えずにいる。
「付き合ってどれくらいになるんだ?」
「二年です。きっとバンドの練習なんだと思います」
「バンド?」
「はい。涼ちゃんはメジャーデビューを目指しているんです」
大学三年生の春に、親友の芽衣に誘われて、ライブハウスを訪れた。
鼓膜が破れそうなほどの大音量で流れる音楽と、ステージに詰め寄る熱狂的なファンの姿。
今までクラシックコンサートしか行ったことのない私にとって、初めて目にした光景はとても刺激的で気分が高揚する。
複数のバンドが入れ替わって演奏する対バンライブのなかでも、ギターを演奏して歌う涼ちゃんはとてもカッコよくて、ひと目でファンになってしまった。