エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

目的地に到着したタクシーから降りて、マンションのエントランスで涼ちゃんの部屋番号を押す。しかし、しばらく待っても応答はない。

「合鍵は持っていないのか?」

「はい」

彼の言葉を聞き、首を縦に振る。

合鍵があれば涼ちゃんが留守のときに部屋に上がって、掃除や洗濯をしてあげられる。でも自分からねだるのは、はしたない気がして合鍵をほしいとずっと言えずにいる。

「付き合ってどれくらいになるんだ?」

「二年です。きっとバンドの練習なんだと思います」

「バンド?」

「はい。涼ちゃんはメジャーデビューを目指しているんです」

大学三年生の春に、親友の芽衣(めい)に誘われて、ライブハウスを訪れた。

鼓膜が破れそうなほどの大音量で流れる音楽と、ステージに詰め寄る熱狂的なファンの姿。

今までクラシックコンサートしか行ったことのない私にとって、初めて目にした光景はとても刺激的で気分が高揚する。

複数のバンドが入れ替わって演奏する対バンライブのなかでも、ギターを演奏して歌う涼ちゃんはとてもカッコよくて、ひと目でファンになってしまった。
< 11 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop