エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
彼女はいったい誰?
涼ちゃんに尋ねようとした矢先、私よりも先に彼女が口を開いた。
「涼。誰?」
派手なピンク色の長い髪を揺らして、涼ちゃんを呼び捨てにした彼女が私に視線を向ける。
つま先から徐々に上がっていく値踏みするような目の動きを不快に思っていると、涼ちゃんの口から信じられない言葉が飛び出した。
「ファンの子」
「ふぅん。あたし、先に部屋に行ってるね」
「ああ」
彼女が私の前でこれ見よがしにバッグから鍵を取り出し、ロックを解除してマンションの奥に姿を消す。
彼女が合鍵を持っていた事実に衝撃を受けていると、涼ちゃんが大きなため息をついた。
「突然来るなんて、どういうつもりだよ」
「ご、ごめんなさい」
苛立ちをあらわにする涼ちゃんに慌てて頭を下げる。けれど、一度損ねた機嫌はすぐには直らなかった。
「で? なんの用?」
「親とケンカして家を飛び出して来たの。だから……今晩泊めてほしいと思って……」
マンションを訪れた理由を説明しているうちに、涼ちゃんが私のことを『ファンの子』と言っていたのを思い出す。
合鍵を持っていた彼女と、ただのファン扱いされた私。涼ちゃんにとってどっちが本命なのか、聞かなくてもわかる。それでも、一縷の望みを捨て切れない。