エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
求められる回数が徐々に減っていったのは、いつまで経っても痛がる私に満足できなかったからだと納得した。
住人がいつ通るかわからないマンションのエントランスで、恥ずかしい話をされるのはいたたまれない。
羞恥に堪え切れずにうつむくと、大きな声が辺りに響く。
「女性を喜ばすテクニックのなさを、彼女のせいにするなんて最低だな」
思いがけない言葉に驚いて顔を上げて振り返ると、そこには今まで私と涼ちゃんのやり取りを静観していた彼の姿があった。
「さっきから気になっていたんだけど、アンタ誰?」
涼ちゃんがエンジニアブーツの踵をコツコツと鳴らして、彼に近寄って行く。
「へえ。二股かけていた自分のことは棚に上げて、彼女と一緒にいる俺が気になるとは、随分と身勝手だな」
「なんだと?」
煽るような言葉に触発された涼ちゃんが、彼に勢いよく掴みかかる。
ケンカをして指を怪我したらギターが弾けなくなってしまう。
「涼ちゃん、やめて!」
声を張り上げると、今にも彼を殴りそうな勢いを見せていた涼ちゃんの動きが止まった。
涼ちゃんが「チッ」と舌打ちをして、彼の胸ぐらを掴んでいた手を振り払う。