エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
私を裏切った涼ちゃんの心配をしてしまう自分にあきれながらも、大事にならずによかったと胸をなで下ろす。
「気持ちが冷めてしまったのは仕方ないとしても、今まで付き合ってきた彼女に感謝の気持ちも伝えられないのは、同じ男としてどうかと思うけどな」
彼が涼ちゃんに掴まれて曲がってしまったネクタイを正す。その冷静な様子を見てなにかを感じ取ったようだ。涼ちゃんがバツの悪い表情を浮かべて私に向き直った。
「ギターや衣装をプレゼントしてくれてサンキュ。もう二度と会わないと思うけど元気でな」
涼ちゃんの優しい声を聞いたら、今までの楽しい思い出が脳裏によみがえって涙腺が緩み出す。
本当は別れたくなんかない。でも、泣いて涼ちゃんを困らせたくない。
「……涼ちゃんも……元気で」
「ああ」
込み上げてくる涙が目からこぼれ落ちないように我慢して下唇を噛みしめていると、涼ちゃんが私に背中を向けて歩き出す。
エントランスのロックを解除してマンションの奥に姿を消す涼ちゃんのうしろ姿が、涙で揺らめく先に見える。
もうこの先、涼ちゃんを応援できないと思うと、どうしようもなく悲しくなって、堪えていた涙が大粒の涙となって頬を伝った。