エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
名前も知らない彼と一夜を過ごす
「ちょっと電話してくる」
「はい」
ホテルのリビングのソファに座る私に、彼がひと言告げて部屋を出て行く。
涼ちゃんと別れて泣いていた私に、彼は「家まで送る」と言ってくれた。でも、このまま帰ったら、お見合い相手と会いたくなくて家を飛び出したことを親に責められるし、泣きはらした顔を見られたらなにがあったのかと問い詰められるに決まっている。
「家には帰りたくない」とワガママを言うと、眉をひそめた彼に「ほかに行くあてはあるのか?」と聞かれる。
親友の芽衣は彼氏と同棲しているから邪魔はできないし、そもそもスマホを持っていないのだから誰とも連絡の取りようがない。
首をフルフルと横に振ると彼が「仕方ないな」とつぶやき、呼び出したタクシーの運転手に六本木にある高級ホテルの名前を伝えた。
見ず知らずの私を気遣ってくれる彼は親切でいい人だと思う。けれど、出会ったばかりの人とホテルに行くのはさすがに抵抗がある。
やっぱり、家に帰った方がいいのかもしれない。
一瞬、弱気になったものの、失恋した痛みを胸に抱えたまま親の小言を聞くのはつらい。
もう、どうにでもなれという投げやりな気持ちでタクシーに揺られ、ホテルに到着すると黙ったまま彼の後をノコノコとついて来たのだ。