エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
明るさを感じてハッと目が覚めた瞬間、自分の部屋とは違う高い天井が視界に入る。
ここはどこで、なぜこの場所で眠っていたのか思い出せない。
まだぼんやりとする頭で寝返りを打つと、ぐっすりと眠っている彼の姿が目に飛び込んできた。
そうだ。昨日は涼ちゃんにフラれて、彼とホテルで一夜を過ごしたんだ。
曖昧だった記憶が一気によみがえり、慌てて毛布を口もとまで手繰り寄せるとなにも身に着けていない体を隠した。けれど、私の動きでベッドのスプリングが波打っても、彼は規則正しい寝息を立てている。
失恋した当日に泣き寝入りしなかったのは彼のお蔭。昨夜の情熱的な行為が頭に浮かぶなか、彼の閉じた目の際から生える長いまつ毛と通った鼻筋を見つめる。
私の前に突如姿を現したこの人は、いったい何者なのだろう。
名前も年齢も職業も知らない彼に、興味が湧いてくるのを止められない。しかし、これ以上関わりを持ってはいけないと、心の中でブレーキをかけた。
昨夜は『俺の彼女になればいい』と言われてついその気になってしまったけれど、体から始まる恋愛なんてどう考えてもおかしいし、彼も本気で言ったのではないはずだ。
私たちは一夜限りの関係で、この先顔を合わすことは二度とない。
気持ちを切り替えてまだ眠っている彼を起さないように、ベッドからそっと抜け出して身支度を整える。
〝ごめんなさい。やっぱりあなたの彼女にはなれません。さようなら〟
走り書きしたメモを残して、逃げるようにホテルの部屋を後にした。