エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
彼の正体
家の玄関の前で、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで吐き出す。
この先、お見合い相手と会うのが嫌で家を飛び出した挙句にひと晩帰らなかったことを責められると考えただけで、憂鬱な気分になってしまう。でもそれは、お見合いは嫌だとハッキリ言わなかった私が悪い。
今は誰とも結婚する気はないと両親にきちんと伝えようと心に決めると、玄関ドアを開けて中に入った。
「ただいま」
小さな声で挨拶をして家に上がっても、うしろめたさを拭い去ることができない。
このままでは、親の顔をまともに見られそうもない。
話は気持ちが落ち着いてからしようと決めたとき、母親が玄関ホールに姿を現した。
「おかえりなさい」
「た、ただいま」
険しい表情を浮かべる母親に、朝帰りした理由を説明しようと思ったけれど、名前も知らない男性とひと晩過ごしたとは口が裂けても言えない。
自ら波風を立てる必要はないと黙っていると、母親がしびれを切らしたように口を開いた。
「朝帰りは感心しないわね」
「ごめんなさい」
心配かけてしまったと反省して謝ったものの、母親の小言は終わらない。