エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
「今さら見合いをする必要はないだろう」という父親のひと声で決まった、両家の顔合わせ当日。女将さんの案内で料亭内の通路を両親とともに進む。
人生初の朝帰りをしたうえに、相手が朝比奈さんだと知られてしまった気恥ずかしさで、親には誰とも結婚したくないと言えないまま三週間が経ってしまったけれど、今もその気持ちは変わっていない。
ホテルで一夜を過ごしてから彼と会うのは今日が初めて。いったい、どんな顔をすればいいのだろうと考えていると、女将さんが膝をついて扉をノックした。
「失礼いたします」
緊張が増すなか扉が開くと朝比奈さんと目が合い、心臓がドキッと音を立てて跳ね上がる。
ブラックスーツにネイビーのストライプネクタイがよく似合っている彼に、一瞬でもときめいてしまうなんてどうかしている。
朝比奈さんから慌てて視線を逸らして席に着くと、改めて挨拶を交わす。
「朝比奈龍臣です。またお会いできて光栄です」
「佐伯美桜です。本日はよろしくお願いします」
口もとに笑みを浮かべる余裕がある彼とは対照的に、動揺している私は自分の名前を名乗るだけで精いっぱい。鏡を見なくても顔が引きつっているとわかる。
折角、高級料亭に訪れたというのに、緊張で豪華な食事も満足に喉を通らない。結局そのまま会食が終わり、両親たちがお見合いでもないのに「あとは若いおふたりで」という言葉を残して個室からそそくさと出て行ってしまった。