エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

「ここは料理もうまいが庭園も素晴らしい。少し散歩しませんか?」

彼が澄ました顔で話しかけてくる。

著名人御用達の赤坂(あかさか)にあるこの料亭に初めて来た私とは違い、彼は何回か訪れたことがあるようだ。

もしかしたら、商談などで利用しているのかもしれない。

さすが、アサヒナ自動車の次期社長と感心したのも束の間、銀行の広報部で働く私とは立場が違いすぎると気づく。

彼がこの縁談をどう思っているのか気になり、様子をうかがう。しかし、眉ひとつ動かさない彼から感情は読み取れない。

このまま個室にいるのも気まずいし、気持ちを切り替えるためにも外の空気を吸った方がいい。

「はい」

返事をして立ち上がろうとすると、目の前に大きな手がスッと差し出された。

「ありがとうございます」

さりげないエスコートに感謝して、朝比奈さんの手を借りて立ち上がる。

「今日のワンピースもよく似合っている」

彼が二重の目を細めてニコリと微笑む。

今日は顔合わせというかしこまった席に相応しいように、紺色の膝丈ワンピースを選んだ。

「そうですか? ありがとうございます」

褒め言葉はお世辞だとわかっていても、口もとが勝手に緩んでしまう。

「行こうか」

「はい」

女性の扱いに慣れている彼に対して複雑な感情を抱きながら、重なり合っていた手を離して庭園に向った。
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