エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

パンプスを履いている私に合わせてゆっくりと歩いてくれる朝比奈さんと、手入れが行き届いた日本庭園を散策する。

「梅雨入りしたら、もっと綺麗だろうな」

「そうですね」

色づく前の紫陽花を見て話す彼に相づちを打つ。

六月になっても東京はまだ梅雨入りしていない。

雨が続く前の貴重な太陽の日差しに目を細めると、前を歩いていた彼が足を止めた。

「俺が見合い相手だと知って、驚いたか?」

「はい。もちろん」

涼ちゃんを忘れるために一夜を過ごした相手が、まさかお見合い相手の朝比奈さんだとは思ってもみなかった。

外の新鮮な空気を吸って、少し落ち着いてきた気持ちが再びざわめき始める。

「俺も田園調布の家の前に着いたタクシーの中から、血相を変えて走って行くキミの姿を見て驚いたよ」

「えっ?」

初めて出会ったのは駅前だと思い込んでいた私にとって、彼の話は寝耳に水ですぐには信じられない。

目を丸くする私を見て、彼がフッと笑う。

「キミと違って俺は見合いに抵抗はなかった。キミの写真を見たとき、こんなにかわいらしい女性が相手だと知ってうれしく思ったくらいだ」

面識がないにもかかわらず、彼がタクシーの中から私を認識できたのは、お見合い写真を見ていたからだと納得する。

それにしても、真顔で『かわいらしい』と言われるのは照れくさい。
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