エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
家に戻っても玄関のドアを開ける音や階段を上がる足音が響いてしまい、両親に見つからずに部屋からバッグを持ち出すのは難しそうだ。
自分の無鉄砲な行動にあきれてしまう。けれど、いつまでもこの場にいてもなにも解決しない。
こうなったら、涼ちゃんがひとり暮らしをしているマンションまで歩くしかない。
田園調布駅から彼が住む二子玉川駅まで三駅ある。
いったい、どれくらいの時間がかかるかわからないけれど歩けない距離じゃないはずだ。
心を決めてベンチから勢いよく立ち上がる。すると、思いがけず声をかけられた。
「お姉さん、ひとり?」
私に話かけてくる年配の男性の顔は見たこともないし、こちらに近寄ってくる足取りはフラフラとしていて危なっかしい。
もしかしたら酔っているのかもしれない。
絡まれたら大変だと思い、背を向けて酔っ払いから逃げるように足を一歩踏み出した。その直後、背後からドサッという大きな音が耳に届く。
びっくりして足を止めて振り返ると、酔っ払いが地面に尻もちをついて「痛てぇ~」と弱々しい声をあげている姿が目に飛び込んだ。