エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
もしかしたら私と芽衣の邪魔をしないように気を遣っているのかと思ったものの、着崩されていないスーツ姿を見てそうではないと気づく。
仕事が終わって家に帰れば、ネクタイくらいはずすはずだ。
「もしかしてお仕事中でしたか?」
「ああ。今日中に終わらせなければならない仕事がまだ残っていてね」
「忙しいのにお呼び出てしてすみませんでした」
お酒じゃなくてアイスコーヒーをオーダーした時点で、気がつくべきだったと後悔して頭を下げる。
「いや。丁度気分転換したかったんだ。気にしないでくれ」
残業中にリフレッシュしたい気持ちになるのは共感できるけれど、それが本心なのかはわからない。
朝比奈さんの話を真に受けていいのか悩んでいると、彼が伝票を手に取って腕時計に視線を向ける。
アイスコーヒーしか飲んでいない彼に、支払いをさせるわけにはいかない。
「あっ、それは」
「気にしなくていい。それより、あまり遅くならなうちにタクシーで帰るように。いいね?」
「はい」
朝比奈さんが自分勝手で思いやりのない人だったら、迷わずに縁談を断れるのにと思いながら、私たちの前から立ち去る彼のうしろ姿を見つめた。