エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
危ないというのは心配しすぎのような気がするけれど、私を気にかけてくれていると思うとなにも言えない。
大きな手の温もりを気恥ずかしく思いつつ、黙ったまま手を引かれて歩を進めていると、あっという間に正面エントランスの前に着いた。
「こっちだ」
「はい」
すでに開場が始まっている入り口を通り過ぎて、建物の裏にある通用口のスタッフに彼が声をかける。
「朝比奈様。お待ちしておりました。お席までご案内いたします。どうぞ」
スタッフの誘導に従ってホールに入り、二階に続く階段を上がる。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
スタッフにお礼を伝えた彼に続き、案内された中央前方にある関係者席に腰を下ろした。
ここからは、ステージ全体がよく見渡せる。
知り合いだという交響楽団の副理事長と、タクシーの中で短い会話を交わしただけなのに、手厚いもてなしをされるのは、彼がアサヒナ自動車の次期社長だから。
改めて立場の違いを実感していると、開演のブザーが鳴り響き照明が落ちる。
こんないい席でコンサートを鑑賞できる機会は滅多にない。今は余計なことは考えずに集中しよう。
背筋を伸ばして登壇した指揮者に拍手を送った。