エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
「ありがとうございます。龍臣さん」
うれし涙が込み上げてくるなか、震える声で彼の名前を呼んで感謝の気持ちを伝える。
「美桜。ふたりで幸せになろう」
「はい」
龍臣さんの手がゆっくり伸びてきて、私の瞳からこぼれ落ちた涙を優しく拭ってくれる。その指先の温もりを心地よく思っていると、端整な顔がゆっくり近づいて来るのが見えた。
キスを求められるのはうれしい。でも、ここは教会の前でいつ人が訪れてもおかしくない。
「こ、こんなところでダメです!」
首を左右に振っても、私を見つめる彼のまなざしは熱を帯びたまま。
「人の足音も話し声も聞こえてこないだろ? つまり、今この場所には俺たちしかいないってことだ」
龍臣さんの言う通り、白樺の葉がサワサワと風に揺れる音と小鳥のさえずりが聞こえるだけで、辺りに人の気配は感じない。
見ず知らずの人に見られるのが嫌でキスを拒んだけれど、ふたりきりなら周りの目を気にする必要はない。
「龍臣さん」
ねだるように名前を呼んで瞼を閉じると、瞬く間にふたりの唇が重なる。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
叶わない願いを胸に抱きながら、徐々に深まる甘いくちづけに酔いしれた。