エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす
元カノ現る
ふたりにとって忘れられない思い出ができた夏が終わり、迎えた十月中旬の金曜日の夜。
東京駅からほど近い高級ホテルの控え室で、今日のために新調した菊模様の振袖を身にまとう私の肩に、龍臣さんの手がポンとのる。
「力が入っているな。もっとリラックスした方がいいぞ」
呼吸が苦しく感じるのは帯がきついからじゃない。
三十分後には大勢の招待客の前に立たなければならないというのに、緊張しない方がおかしい。
「無理です」と即答する私の前で、彼が瞳を細めてクスクスと笑い出した。
今日は十月一日付で社長となった龍臣さんの就任パーティー。
私たちは九月に結納を済ませており、彼の挨拶が終わったら婚約者として紹介される予定になっている。
「大丈夫だ。なにかあったら俺がフォローする」
勇気づけてくれるのは心強いけれど、すぐに気持ちを切り替えられるほど私は器用じゃない。
返事もできずにうつむいていると、頬に大きな手が触れた。
「どんなときも俺が全力で守る。信じてほしい」
龍臣さんの困惑した声を聞いて息を呑む。
アサヒナ自動車の社長となった彼を支える覚悟を決めてプロポーズを受けたのに、この期に及んで怖気づいている場合じゃないと自分を奮い立たせる。
「ごめんなさい。もう大丈夫です」
「そうか」