エリート御曹司は独占欲の募るまま、お見合い令嬢を愛で落とす

彼がニコリと微笑み、私の頬に触れていた手を離す。

「その着物もよく似合っている。綺麗だ」

緊張をほぐすために、さりげなく話題を変える気遣いがうれしい。

「ありがとうございます。龍臣さんも素敵です」

「そうか? ありがとう」

今日の主役である彼は、ブラックのタキシードをパリッと着こなしている。

どんな服装も似合う龍臣さんをうっとり見つめていると、控え室にひとりの男性が姿を現す。

「美桜、紹介する。弟の彰仁(あきひと)だ」

彼が、涼しげな目もとが特徴的な弟さんの横に並んで笑みを浮かべる。

「はじめまして。朝比奈彰仁です。よろしくお願いします」

龍臣さんと同じように、十月一日付で専務取締役に就任した彰仁さんと会うのは今日が初めて。急いでイスから立ち上がって頭を下げる。

「佐伯美桜です。こちらこそよろしくお願いします」

身長は龍臣さんとほぼ同じ。癖のないサラリとした髪質と、少し厚みのある形のいい唇がふたりともそっくりだ。

「そろそろ時間だな。さあ、行こうか」

「はい」

ついさっきまで、穏やかな笑みを浮かべていた龍臣さんの顔つきが変わる。

緊張で再び体が小さく震え出したものの、『俺が全力で守る』という彼の言葉を思い出し、すぐに落ち着きを取り戻した。

私には龍臣さんという最強の味方がいる。

キリッと引きしまった表情を浮かべる彼とともに、控え室を後にした。
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