クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
憂える
十月の、第二土曜日。
朝から気持ちのいい快晴の空の下、東京でも屈指の高級住宅街、高輪にある豪邸の前庭に、たくさんの人が集っている。
大正時代から代々受け継がれてきたという、博物館のような立派な洋館は、日本の警察界のトップを歴任してきた名門一族・瀬名本家の本邸だ。


今日は警察庁長官を務めた経歴を持つ先代、瀬名家長老の卒寿のお祝い会が開かれている。
瀬名家は警察界のみならず、財政界とも長年に亘る太いパイプがあり、手入れの行き届いた広い庭を埋めるのは、そうそうたる顔ぶれだ。
内閣総理大臣を筆頭に、各省庁の大臣に、経済界の重鎮の姿も確認できる。
現当主である前警視総監が夫人を伴い、シャンパングラスを片手に挨拶に回り、至る所で足を止めて歓談している。


主役の長老は車椅子に座り、直射日光を避けた木陰で秋風に吹かれながら、皆の様子を目を細めて眺めている。
御年九十歳。
私が生まれる前に警察界を勇退されているものの、羽織袴を纏った悠然とした居佇まいは、今でも威厳たっぷりだ。
長老の前には、招待客がひっきりなしに挨拶に訪れていたけれど、


「凛花、お前の旦那はどうした」


客足が途切れたところで、傍らで付き添っていた私に声をかけてくださった。
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