クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
ちろりと目線を上げられ、彼女……篠原さんがグッと詰まる。
中西先生は彼女に構わず、私に着席を促した。


私は、唇を噛んで腰を戻す篠原さんと、菜々子さんと先生に交互に視線を向けながら、肩を縮めてスツールに腰を下ろした。
どう考えても、篠原さんは私の同席に不満そうなのに、これからどんな話が始まるのか――。


視界の端で彼女を気にしながら、中西先生を窺う。
先生は、前に身を屈めた。


「控えめに見ても、ご主人の離婚請求に対するあなたの条件は無理がある」

「…………」

「正直、落としどころがない。しかし、瀬名の言葉が導いてくれました」

「この人の?」

「篠原さん。あなたはご主人と離婚したいですか?」


疑わし気に眉根を寄せる彼女に、担当直入に問い質す。
篠原さんが怯んだ気配は、私にもわかった。


「離婚を望んでいるとしたら、あなたの行動も条件も、矛盾だらけなんです」


菜々子さんが、真摯な瞳で彼女を見つめる。


「失礼を承知で言います。あなたが浮気をしたのは、ご主人へのただの腹いせですよね?」

「…………」

「妊娠はそのせいですよね。だったらどうして、堕胎を考えなかったんですか?」
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