クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
口調は柔らかいけど、グイグイ踏み込む菜々子さんの前で、篠原さんは黙っている。
私は、彼女にそっと視線を向けた。
シックなワインレッドの口紅を塗った唇が、わなわなと震えている。
中西先生も菜々子さんも、彼女の返事を待っている。
私がいるから答えられないんじゃないかと考えたけど、どうしてだか、私はスツールに根が生えたように動けない。
探り合う、気詰まりな沈黙が流れた。
時間を気にしたのか、中西先生が「篠原さん」と彼女の名を呼んだ。
「このままでは、調停で済まず民事裁判に持ち込まれる可能性があります。依頼人のあなたが、本当に望んでいることはなにか。それがわからなければ、私も代理人にはなれませんよ」
穏やかに諭す言葉に、篠原さんはガクッとこうべを垂れた。
タイトスカートの上で、血の気を失って白くなるほど、固く手を握りしめ……。
「堕ろすなんて選択肢、最初からなかったわよ」
再び顔を上げた彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「だってこの子は、夫の子だから……!」
「……え?」
「うっ……ふううっ……」
思いも寄らない発言にポカンとする中西先生たちの前で、彼女は肩を震わせて泣き始めた。
私は、彼女にそっと視線を向けた。
シックなワインレッドの口紅を塗った唇が、わなわなと震えている。
中西先生も菜々子さんも、彼女の返事を待っている。
私がいるから答えられないんじゃないかと考えたけど、どうしてだか、私はスツールに根が生えたように動けない。
探り合う、気詰まりな沈黙が流れた。
時間を気にしたのか、中西先生が「篠原さん」と彼女の名を呼んだ。
「このままでは、調停で済まず民事裁判に持ち込まれる可能性があります。依頼人のあなたが、本当に望んでいることはなにか。それがわからなければ、私も代理人にはなれませんよ」
穏やかに諭す言葉に、篠原さんはガクッとこうべを垂れた。
タイトスカートの上で、血の気を失って白くなるほど、固く手を握りしめ……。
「堕ろすなんて選択肢、最初からなかったわよ」
再び顔を上げた彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「だってこの子は、夫の子だから……!」
「……え?」
「うっ……ふううっ……」
思いも寄らない発言にポカンとする中西先生たちの前で、彼女は肩を震わせて泣き始めた。