クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私の場合、素直に奎吾さんに伝えようとしたら、きっと我儘だらけになる。
でも、そうやって心を表すことが大事だと教えてもらった、そんな気がする。


――今夜、奎吾さんは帰ってくるだろうか。
今夜は無理でも、明日、明後日。
とにかく、彼とゆっくり話すチャンスを逃さないよう、私はその時を家で待っていよう。


「……よし。帰ろう」


私は頭上の空を仰ぎ、自分を鼓舞するように口に出して呟いた。
午後六時半。
もうすっかり陽は落ち、夜の帳が下りている。
早く帰って、あの拗ねた書き置きを回収しなきゃ。
帰宅して真っ先にやることを頭に巡らせながら、広い通りに足を踏み出した、その時。


「失礼。瀬名凛花さんですね?」


電信柱の陰からスッと現れたスーツ姿の若い男性に、道を塞がれた。


「え? は……」


反射的に返事をしようとした私の目の前に、ぶらんと提げられたもの……それには見覚えがあった。
二つ折りの黒い革の手帳。
身分証より、金色の桜を象った厳ついエンブレムの方に目が行く。
奎吾さんのと同じものだ。


「警視庁捜査二課の刑事、遠山(とおやま)と申します」


男性は戸惑う私にそう名乗り、警察手帳を丁寧に懐に戻す。
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