クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「捜査二課? それじゃ……」

「瀬名管理官の班に所属しております」


私が問おうとしたことを読んでいて、無表情で遮った。


「そうですか。主人がいつもお世話に……」

「奥様に、幾つかお訊ねしたいことがあります。お時間よろしいですか?」


なにを言おうにも先回りされて、私は言葉に詰まった。
遠山、と名乗った刑事さんの視線が、私の手のボストンバッグに落ちる。


「どこか、ご旅行ですか」

「あ。……いえ。これは」


私は、とっさにバッグを背中に回した。
奎吾さんの部下だ。
優秀な刑事さんに違いない。
菜々子さんと同じように、家出と思われたら、奎吾さんの評判に傷がつくかもしれない。


「私、無駄に荷物が多くて……」


私はぎこちない愛想笑いで誤魔化した。
――やっぱり、苦しいかな。
鋭い視線を外さない彼の前で、落ち着きなくそわそわと目を彷徨わせる。


だけど、遠山さんは特に追及せずに、「そうですか」と相槌を打った。
そして。


「立ち話もなんですから、署までご同行願えますか」

「っ、え?」

「そんなにお時間は取らせません」


怯む私に構わず勝手に話をまとめ、通りがかったタクシーに手を上げた。
空車表示のタクシーが左のウィンカーを点滅させて、私たちの前に滑り込んでくる。
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