クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「さ、乗って」


遠山さんが、わりと強引に私の背を押した。


「あ、あの。そこに主人もいるんじゃ……」


タクシーの後部座席に押し込められ、振り返って訊ねる私に、怪訝な顔をする。


「ご主人の立ち会いが必要ですか?」


眉根を寄せて見下ろされ、私は言葉をのんだ。
結婚記念日、あの後だ。
あれから初めて顔を合わせるのが警視庁、彼の職場になってしまったら、さすがに気まずいしきまり悪い。
心の準備も必要だ、なんて焦ったのだけど、遠山さんには『旦那がいないと話もできないのか』と蔑まれたのだとわかった。


「……いえ」


私はかぶりを振って目を伏せた。
私の後から、遠山さんが乗り込んできた。
運転手の方に身を乗り出し、「警視庁まで」と行き先を告げている。


車が走り出すと、遠山さんは窮屈そうに足を組んだ。
厳しい目で、まっすぐ前を見据える。
腕組みまでして、私から自分を完全ガードしているみたい。
少しの雑談にも応じる気はないという意思の表れのよう。


――どうしてだろう。
初対面から、よく思われていない。
むしろ敵視されているような……?


奎吾さんの部下の刑事さんから漂ってくる、好感にはほど遠い雰囲気。
私は不可解な思いを抑え、黙ったまま肩を竦めた。
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