クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
警視庁に着くと、簡素なテーブルとパイプ椅子だけが置かれた、狭く殺風景な部屋に通された。
遠山さんは私に椅子を勧めて、出ていってしまった。


私は座り心地の悪い椅子に、浅く腰かけた。
所在なく、おどおどと室内を見回していると、遠山さんが戻ってきた。
もう一人、見知らぬ男性が一緒だ。
私は、とっさに腰を浮かした。


「あの、主人がいつもお世話に……」

「挨拶は無用です。おかけください」


最後まで言わせてもらえず、すごすごと腰を戻した。
遠山さんは、私の正面を彼に勧めて、自分は斜め前の椅子を引く。
私の向かい側に座った刑事さんは、胸ポケットから警察手帳をチラリと覗かせ、「二課の神田(かんだ)です」とだけ名乗った。


歳の頃は、三十代後半。
多分、奎吾さんより下で、遠山さんよりは上の階級。
瀬名家に嫁入りしてから、周りに警察官がたくさんいるせいで、ついつい相手の階級を予想する癖がついてしまった。


神田さんは私の視線に構わず、手元の書類に目を落とした。
遠山さんは、ノートパソコンを起動させている。
多分、記録を取るのだろう。
警察に記録を取られるような話……なんだろう?
ここに来て不安が強まり、私は萎縮した。


「さて、瀬名凛花さん。旧姓藤崎さん。間違いないですか?」
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