クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
真正面から、神田さんが上目遣いで訊ねてくる。
ギョロッとした目が、カメレオンみたいでちょっと怖い。


「……はい」


何故、わざわざ旧姓を確認されたのか謎だった。
無意識に首を傾げる私に、遠山さんも目を光らせている。


……なんだろう。
遠山さんだけじゃない。
二人とも、私に対して好意的ではない。
キーボードに指を走らせる遠山さんの横で、神田さんがテーブルに両肘をのせて身を乗り出した。


「あなたの親族には、官僚や政治家が多くいますね。その中の一人、藤崎六郎氏についてお訊ねしたい」

「え?」

「ご存知ですよね?」


まったく予期していなかった人の話題に、ちょっぴり意表をつかれた。
藤崎六郎……長年に亘って衆議院議員を務める、政界の重鎮と言える大物政治家だ。
私には、この春大学を卒業したばかりの和人(かずと)君というはとこがいて、六郎叔父様は彼の叔父に当たる。
私とは直接的な血縁関係はなく、親族と言うほど近くもない。


「遠い親戚です」


私は、言葉を選びながら答えた。


「あなたは大学四年間、当時野党の代表だった六郎氏の個人事務所でアルバイトをしていた。間違いないですか?」

「はい……」


きっと、私のことは調べ上げていて、齟齬がないか事実確認をしているのだろう。
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