クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
遠山さんも指を止め、黙って私の返事を待っている。


「パソコンメールを? いえ。友人との連絡はLINEばかりで、パソコンメールは使ったことが……」

「ないわけないでしょう。短期間とは言え、お仕事をされた経験があるんだから」


答える途中で居丈高に言葉を挟まれ、私は口を噤んだ。


「正社員としてお勤めされた会社でも、アルバイトの事務所でも、メールアドレス、貸与されたでしょ?」


――なんだろう?
この二人から伝わってくる、私への疑心、敵意。
言い換えれば、犯罪者を暴く刑事の信念のようでもある。


そもそも、なんで私は、警視庁に連れて来られたんだろう?
これは、取調べなんだろうか?
私は、カラカラに渇いた喉を潤そうと、ごくりと唾を飲んだ。


「……はい。でも、わざわざスマホでまでは……」


俯き、膝に置いた手元に目を彷徨わせた時、ドアの向こうからなにか騒々しい音が聞こえてきた。
バタバタと走っているような足音が、どんどん大きくなってきて――。


「おい、どういうことだ!」


鋭い怒声と同時に、蹴破られる勢いでドアが開いた。
凄い音がして、私は反射的に両手で耳を覆った。
首を縮め、恐る恐る上げた視界の真ん中で、肩で息をして立っている奎吾さんを見つけた。


「あっ……」


私は弾かれたように腰を浮かせた。
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