クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
勢いがつきすぎて、椅子がガタンと音を立てる。
奎吾さんが反応して、私を見つめた。
だけど一瞬で目を逸らし、やや青ざめた顔を神田さんたちに向ける。


「遠山。俺の許可なしに、妻を連行した理由を説明しろ」


凍りつきそうなほど冷たい声で命じられ、遠山さんがスッと立ち上がって敬礼した。
一足遅れて、神田さんも腰を上げる。
奎吾さんから睨まれても、二人とも怯んだ様子はない。


「瀬名さん。奥様は重要参考人です」


遠山さんが、キビキビと事務的に答える。
それは、もちろん私の耳にも届いた。


「……え?」


ますます意味がわからず、困惑して聞き返した私を、


「接触は待てと言っただろう!?」


奎吾さんが、鋭い怒声で阻んだ。
神田さんが遠山さんと顔を見合わせて、溜め息をつく。


「瀬名さん。こっちこそ意味がわかりません。重要参考人に聴取するなと? 事件を解決したくないんですか」

「聴取するなとは言わない。だが、香港警察からの正式な回答を待ち、確証を得てからだと言ったはずだ。お前たちの行動は性急すぎる」


自分を落ち着かせようとしてか、トーンを落とした低い声で淡々と続ける。
私は、この短い会話の中で飛び交った不穏なワードを、頭の中に巡らせた。
重要参考人。連行。聴取。香港警察――。
そのすべての中心に、私がいる。


なに? どういうこと……?
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