クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私は当惑して、奎吾さんに縋る思いで目を向けた。


「瀬名さんにしては、判断が鈍い」


神田さんが胸を反らして腕組みをした。


「庇いたいのはわかりますが、まさに奥様は、荷物をまとめて逃げようとしていました」

「え?」


奎吾さんの眉がピクリと動く。


「夫である瀬名さんが香港に出張したことで、発覚するのを恐れたのでは?」

「馬鹿な。担当事件のことを妻に話したりしない」

「ですが、遠山が連行しなかったら、逃亡された後だったかもしれない。そうなっていたら、瀬名さんは逃亡幇助を疑われたでしょう」


横柄に踏ん反り返る神田さんから目を逸らし、私の足元に落とした。
彼の視線が、床に直置きしてある大きなボストンバッグに留まる。


「あ、あの、奎吾さん。これは……」


一歩前に出て説明しようとした私を、奎吾さんが手で制した。
そして、口元を押さえて目を伏せ……。


「妻には俺から事情を話す。少しの間、席を外してくれないか」


命令とは違うニュアンスに、神田さんと遠山さんが顔を見合わせた。


「ですが、参考人の夫の瀬名さんが聴取するわけには」

「聴取は任せる。とにかく、妻に説明させてもらえないか。いきなり連行されて、意味がわからず混乱している。不必要に怯えさせたくない」


彼の眉間に刻まれた深い皺を見て、私は無意識に胸元に手を遣った。
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