クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
純平がトランクを閉めながら挟んできた。


「凛花さんを預かること、歩は喜ぶだろうし、ある意味俺も助かる。だが、うちにはもう一匹住人がいるからな」

「え?」


運転席に向かう彼に、怪訝な思いで聞き返す。
凛花も、車内から彼の背を目で追っていた。


「小児喘息だったなら、アレルギーが心配だ」


純平が運転席のドアを開けながら、ルーフ越しに俺を見遣った。
軽く車体を揺らして運転席に乗り込む彼がなにを言わんとしたか、俺もピンときた。


「……凛花。お前、猫平気か?」


顎を摩りながら問いかけると、凛花はきょとんとした顔をして小首を傾げた。


「猫?」

「ああ。コイツ、ちょっと前に捨て猫保護して……」

「うちでのヒエラルキーは、歩より上の住人だ。まあ、気に入られなければ寄って来もしない。凛花さんも、不用意に近付かないことだな」


エンジンをかけながら淡々と説明する純平を見て、忙しなく瞬きを繰り返している。
そんな様子に、俺はわずかに眉尻を下げた。


「……一週間我慢してくれ、凛花」


凛花が、おずおずと俺を見上げる。


「俺が必ず、お前は無関係だと証明するから」

「その言葉、忘れるなよ」


俺が彼女に告げた約束を、純平が鼻で笑って揶揄する。
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